「なぜ“職場”のハラスメントが減らないのか?」電通事件で現役産業医が考えた3つの課題

「職場」でのハラスメントの相談件数は最多

 最近は全国の総合労働相談コーナーへの「いじめ・嫌がらせ」の相談件数が増加するなど、「職場のハラスメント」は社会問題として顕在化していると言われています。具体的には、職場での「いじめ・嫌がらせ」に関する相談受付件数は、6万6566 件(22.4%)であり、民事上の個別労働紛争相談件数に占める相談内容として最多です。 ⇒【資料】はコチラ http://hbol.jp/?attachment_id=115334

※厚生労働省「個別労働紛争解決制度施行状況」より

 ハラスメントを受けると、頑張っている人ほど自分が認められていないと傷つき落ち込みます。そして、認めてもらえていないということ自身が孤独感を高め、他人に相談できなくなり、自分の存在価値を必要以上に落とし(自己肯定感の低下)てしまうのです。それが、自分への否定、現状への否定、精神疾患を発症させるきっかけとなり、自殺に至るのだと考えられます。
武神健之氏

武神健之氏

 厚生労働省も’12年に「あかるい職場応援団」というHPを立ち上げて、職場のパワーハラスメント問題の予防と解決に向けて、本腰を入れています。  データを見る限り、実際に職場のハラスメントは増えているのでしょう。しかし、何かあったときに「これはハラスメント」だと感じる人が増えてきた、あるいはハラスメントという言葉が定着するにつれ、すぐにハラスメントだと声をあげる人が増えてきたという面にも注意が必要です。  このコラムを読んでいるあなたも、「いつ」「どこで」ハラスメント加害者として訴えられる可能性はあります。大切なのは、ハラスメント被害者が出た、気づいたときに、それを訴えるべき連絡先の開示や、実際の調査方法の確立等のルールやフロー作りでしょう。  実際に私は、メンタル不調による休職者との産業医面談の中で、ハラスメント被害を言い出せず、それが影響してメンタル不調になってしまった方を多数知っています。  大切なのは 1.加害者にならないための“○×すべらず”的なハラスメント研修だけでなく職場のコミュニケーションを円滑にするような研修 2.被害者がアクセスしやすい社内通報システム(社内フロー)の構築(できなければ「法テラス」の紹介と周知の徹底 3.メンタル休職者対応が主のメンタルヘルス体制だけでなく、ストレスケア体制の充実等にも目を向けること  でしょう。  職場におけるハラスメント問題は、解決策が簡単には見つかるとは限らず、また、思いやりの言葉だけでは片付けることのできない課題です。しかし、人事労務に携わる人、いや全ての働く人にもう一度、ぜひ職場で話し合っていただきたいと思います。 <TEXT/武神健之> 【武神健之】 たけがみ けんじ◯医学博士、産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。20以上のグローバル企業等で年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を行い、働く人のココロとカラダの健康管理をサポートしている。著書に『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣 』(産学社)、共著に『産業医・労働安全衛生担当者のためのストレスチェック制度対策まるわかり』(中外医学社)などがある
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