まず今まで麻しんにかかったことが確実である人は、免疫を持っていると考えられるため予防接種を受ける必要はありません。
麻疹の予防接種を受けるべきは、定期接種の対象年齢の方々(1歳児、年長の幼児)と、それ以外でも「麻しんにかかったことがなく、ワクチンを1回も受けたことのない人」です。もしワクチン接種の回数や以前に麻しんにかかったか否か、記憶が曖昧なときは、最寄りの医療機関で採血して、麻しんウィルス抗体の有無で確認できます。お近くのお医者さんに行きましょう。
私は産業医として特に妊娠可能な年齢にある女性には麻しんワクチンの接種や抗体価の確認をお勧めしています。麻しんは、妊娠中に麻しんにかかると流産や早産を起こす可能性がありますので、妊娠前であれば、未接種・未罹患の場合、ワクチン接種を受けることを必ず検討すべきです。ただし、ワクチン接種後、2か月間は妊娠を控える必要がありますのでご注意ください。
もしあなたがすでに妊娠しているのであればワクチン接種を受けることはできません。麻しん流行時には外出を避け、人混みに近づかないようにするなどの注意が必要です。詳しくは、かかりつけの医師にご相談ください。
実は最近ニュースになっている麻しんの流行における患者さんは、20~30代の若者がほとんど。なぜ最近の麻しんの流行は肉体的に元気であるはずのこの世代を中心に流行しているのでしょうか。理由は大きくわけて3つあります。
1つ目に20~30代の人たちの中には、今まで一度も麻しんの予防接種を受けていない人がいます。麻しんは、かつては小児のうちに一度感染し、自然に免疫を獲得するのが通常でした。しかし、麻しんワクチンの接種率の上昇で自然に感染する人は少なくなってきています。この人たちは、麻しんにかかっていない限り、麻しんウイルスに対する免疫を持っていません。
武神健之氏
2つ目の理由はそもそも麻しんの予防接種は一度で十分な免疫が獲得できるとは限らず、麻しんワクチンを1回接種しても、数%程度の人には十分な免疫がつかないことが知られています。’90年4月1日以前に生まれた人は、子どもの頃に麻しんワクチンは1回受けるのみでした。そのため、現在の26歳以上の若者は、時間の経過とともに麻しんウィルスに対する免疫が徐々に弱まって来ている人がおり、麻しんウィルスに対する充分な免疫が得られていない状態です。つまり、現代の若者は麻しんにかかりやすい人がいる世代なのです。
3つ目の理由として海外からの麻しんウイルスの侵入が挙げられます。日本は’15年3月に世界保健機関西太平洋地域事務局により、麻しんの排除状態にあることが認定されています。最近の国内における麻しんのニュースはほとんどが海外から持ち込まれた麻しんウイルスによるものなのです。
外国との人々の交流が盛んな現在、海外からのウイルスや病気の侵入は避けて通れません。一人ひとりの予防意識が求められているのです。
<TEXT/武神健之>
【武神健之】
たけがみ けんじ◯医学博士、産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。20以上のグローバル企業等で年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を行い、働く人のココロとカラダの健康管理をサポートしている。著書に『
不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣 』(産学社)、共著に『
産業医・労働安全衛生担当者のためのストレスチェック制度対策まるわかり』(中外医学社)などがある