EU体制維持のために浮上した「2速度の欧州」論。しかしそれでも問題は山積み

「2速度」でも打破できない現実

 しかし、2速度を適用するにしても、EUの財政統合は現時点でも近い将来においても実現は不可能である。何故なら、EU加盟国28か国の間で経済格差が余りに大き過ぎることである。そして、今も消費税や法人税など税率が自国の経済発展を優先させるために国同士で異なっている。例えば、一人当たりの国民所得を見ると、EUの平均を100%とすると、上位3か国はルクセンブルグ276%、オランダ131%、ドイツ121%となっている。下位を見ると、ブルガリア38%、ルーマニア41%、ポーランド54%となっている。  この大きな格差があるにも拘わらず、これまでEU委員会はひとつの政策を決め、そして欧州中央銀行(EBG)が金融部門を担当して28か国すべての国にそれを適用させようとした。2012年のEUの失業率は11.8%、スペインは26%、ドイツ5.4%という労働事情であった。それに対して、ひとつの経済・金融政策を決めて実施して行くのは無謀としか思えない。  しかし、これまではそれを実行していたのである。その結果、一部の国には恩恵ももたらした。特に恩恵に預かったのは、ドイツだ。  例えば、リーマンショックの後、ギリシャ危機に見舞われるとユーロ安となった。輸出競争力のあるドイツは安いユーロのお陰で輸出が倍増したのである。ドイツの通貨がマルクであれば経済が好調になると、その反動でマルクは値上がりする。しかし、EUではユーロが共通の通貨である。ギリシャなどの経済不安が安いユーロを誘い、それをドイツは利用したということだ。  しかし、これらの「恩恵」は、当初から弱い通貨を持っていたギリシャ、ポルトガル、スペインにとっては痛手だった。各国はユーロの導入で生活物価以上の貨幣価値が生まれ、物価は上昇し景気の後退を生んだ。それが、債務の急増を誘うことになったのだ。
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各国の格差が生み出した「歪み」
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