豊洲移転後は「人情が薄くなる」!? 江戸前文化の存亡にかかわる築地移転問題

移転後は“仲間買い”ができなくなる?

 最盛期は1300軒以上の仲卸業者がいたが、今では574軒に登録業者数は減っている。実際には築地の売り場の面積は減っておらず、仲卸業者の中型化、大型化が進んでいるだけだという文脈で語られる。しかし大型化して店が減ってしまうと築地の魅力が薄れると、別の築地関係者は言う。 「築地の強みは、画一的な店ばかりでないところが魅力。数ある仲卸の中から、自分に合った店選びができる素養が築地にはある。たくさんあるからこそ各々の店に特徴がある。小さくてアナログであっても個性が強い。そういった店の集まりだからこそ世界一の売上を叩き出す市場になった」  国内では魚の消費は伸び悩んでおり、市場経由の流通が今では50%を下回る。半分以上がスーパー等の販売業者の直接取引、産直等の市場外流通になっている。では築地が豊洲に移転したらどうなるのか。売上の動向がきになるのはもちろんだが、別の市場関係者は中の視点からこうも言う。 「築地では伝統的に同業者なら、仲間と呼びます。隣の店で手が足りない時は、買っといてと助け合う『仲間買い』が慣習になっています。どんな相手でも仲間だったら手を貸すのが当たり前。『仲間買い』には手数料は取らないのでお互い儲けも少なくなるが、そんな細かいことを言い出す人はここにはいません。けれど移転費用は自費なので各店の負担は大きいですし、豊洲に行って整備された中ではお隣さん同士のいわゆる“人情”は薄くなるでしょう」  江戸時代から引き継いだ“人情”がここには残っている。それも後わずかかもしれない。
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「豊洲で魚は買わない」と言う職人も
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