豊洲移転後は「人情が薄くなる」!? 江戸前文化の存亡にかかわる築地移転問題

切っても切れない仲買人と飲食店の関係

 では、魚を受け取っている飲食店と仲卸の関係はどんなものなのだろうか。実際にお客さんでもある飲食店にお話を伺うことにした。築地で味に定評がある人気寿司店・築地寿司清本店では、仲卸の濱長から鯛や青物や貝類、穴子など約20種類を毎日仕入れている。 「うちは朝早くから開いているので、うちの寿司を食べてネタの味を確かめてから市場に買いに行く親方衆(他の寿司屋の店主)もいるほどです。うちの寿司が仲卸さんの顔になにもなるので何よりも強い責任がありますね」(築地寿司清の店主)  わざわざ朝から来て味を確かめる親方衆は職人の中でも仲買人にとって特別な客。こだわりが強いが、そういったこだわりが店の味の看板になる。寿司清では江戸前ならではネタが人気だそうだ。 「マグロは仕入れさえすれば、マグロの味がする。だけど卸してもらっている魚は仕入れによって全く変わる。うちの店は、穴子や光り物目当てで来るお客さんも多くいらっしゃる。お好みで握るときに『マグロはいらないから、光り物と貝だけにしてくれ』って人も多くいる。だから良い魚が手に入らないときは品書きに出さない日もありますよ」  店主はそういって新鮮な赤貝をポンと叩く。切れ目を入れて最後に手のひらでポンと叩いてやることでネタが締まる。手を入れてこそ、ネタの味が充分に生きる。 「よく見る人気寿司店のネタは確かに大きくて新鮮ですが、いわゆるうちの出しているような手のかかった江戸前寿司と違うもの。修行した職人が、一から丁寧に手をかけてこそ、この味が出ます」  江戸前寿司とは広義では「東京湾の内湾で取れた魚を使った寿司」のことだが、狭義では「江戸や明治からの職人の技法を中心とした寿司」を指す。その意味ではまさに築地は江戸前寿司の本家本元。味を支える仲買人の腕の見せどころだ。よく一般に言われる“目利き”と呼ばれるものは築地にはない。それは仲買人にとって単に「良い魚を選ぶ」というのは当たり前の条件だからだ。
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移転後は“仲間買い”ができなくなる?
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