藻谷浩介が現場を歩く「里山資本主義」――八戸市の大成功事例

地元の人ほど、地域の魅力に気づいていない

 町田氏は、市内を通る青い森鉄道車内で地元産の食材を売る活動も始めた。 「1駅ごとに地元のおばちゃんが乗り込んできて、地元産品を売って行くんです。これまで、禁止されていたわけではないのに誰もやらなかった」
蕪嶋神社

蕪嶋神社には2~7月にかけて数万羽のウミネコが生息。上空から幸運(ウン)が降りてくると言われ、糞がかかった人は社務所で「会運証明書」を貰うことができる。わざわざ外国から訪れる観光客も。マイナスの環境を観光資源に変えている

 ウミネコの繁殖地・蕪島にちなんだ菓子「八戸うみねこバクダン」を開発したのも町田氏。蕪嶋神社は「株が上がる」とのゴロで投資家を中心に観光客が絶えない神社だが、ここはウミネコの一大繁殖地。空から降る糞に気を付ける必要がある。その光景を見て、洋菓子の専門家に相談して商品開発、地元の人気おみやげ品に育て上げた。  さらに、蕪島と並ぶ八戸の観光スポット「種差海岸」を絡めたツアーも考えた。地元食材の朝食フルコース、海岸沿いのトレッキングツアー、休憩した浜小屋で地元の野菜や魚介類のもてなしを受けることができるというものだ。
種差海岸

種差海岸

「鮫銀座☆漁師の隠れ家はしご酒ツアー」はさらにディープ。夕方に出発して、港町「鮫」の漁師が集まる居酒屋やスナックをはしごした後に終電で戻るツアーで、一見ではなかなか入れない店を体験できるというものだ。
種差海岸

種差海岸の美しい景色を眺めながら、地元食材を使ったパンや卵、海藻スムージーなどの朝食フルコースを堪能する藻谷氏。

 こうした地域振興活動をいくつも始めた町田氏は「ACプロモート」という会社を’13年に設立。現在は社員10人以上を雇い、地域の経済活性化に貢献している。大阪出身の町田氏は留学先の米国で八戸出身の夫と結婚、帰国後に八戸市に来て20年以上になる。 「大阪のおばちゃんパワーを前面に押し出して、積極的に動いて地元住民を巻き込んでいくのが私のやり方。自然環境や景観、食べ物などのすばらしさについて、意外と地元の人のほうが気づいていないものです」(町田氏)
魚介類のシャブシャブ

最後は、朝からホッキ貝やワカメなど新鮮な魚介類のシャブシャブを楽しむ。

【藻谷浩介氏】 ’64年、山口県生まれ。日本総合研究所調査部主席研究員。著書に『デフレの正体』、共著書に『里山資本主義』など。NPO法人「コンパス 地域経営支援ネットワーク」の理事長も務める ― エコノミスト・藻谷浩介と考える「持続可能な地方経済」 ―
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里山資本主義

課題先進国を救うモデル。その最先端は“里山”にあった!!