また、地方と都市部の格差も大きい。今回の投票結果ではロンドンは圧倒的に残留支持であり、幾つか例外はあるものの他の主要都市の多くも残留派が優勢だった。さらにスコットランドと北アイルランドは全域で残留支持だったにも関わらず、それを抑えて離脱派が勝ったのは、イングランドの地方で圧倒的に離脱派が多かったからだ。これには中流階級が都市部に集中しているという理由もあるが、同時に地方の空洞化、特に雇用やカネの都市部への集中も影響していると思われる。特にホワイトカラーの職種は都市部に集中し、都市部より安い人件費を理由に地方に作られる工場などでの仕事は、更に低賃金でも働く移民に流れていく。国内外からの投機マネーで都市部が繁栄するのを横目で見ながら、地方はグローバル化の負の側面だけを強いられていると感じるのも無理もない。
更にここに年齢による視点の違いも加わってくる。EUの前身であるECに英国が加わったのが1973年、現在の形態となるEUが発足したのは1993年だ。現在の中高年層には「EU以前」の英国の記憶が残っている。現在の若者たちは「EUの中の英国」で育ち、移民2世や3世が多く欧州とも繋がりの強い社会に慣れ親しんでいる人が多いが、中高齢層はそうではない。以前からのライフスタイルや価値観が急激な時代の流れに取り残されるのに戸惑うなか、「EU以前の英国」は、グローバル化が進む前の英国、ひいては大英帝国として繁栄していた頃の英国の記憶と混じり合い、強い郷愁をそそるものとなっているのだ。実際のところEUを離脱したからといって加盟前の英国に戻るわけではないのだが、EUの官僚体質に対する不満も加わり、それが英国としてのアイデンティティを取り戻したいという思いを強めてもいる。
そしてこれらの様々な格差は、情報格差という形でも現れてくる。中流階級のいわゆる知識層は様々なメディアに触れることが多いし、都市部では新聞雑誌などのメディアの選択肢も豊富だ。若者はインターネットを使いこなしSNSでも活発に情報交換をしている。しかし、地方では店頭に並ぶメディアの選択肢が限られているし、中高年層にとってインターネットは若者ほど馴染みがない。更に、頑固な気質が残るとされるイングランド北部などの地方では、労働者階級が読む新聞などもある程度決まっており、それ以外を読むのは「インテリ気取り」という意識があると言われる。このため、一部の人々にとってはごく一部の大手メディアが情報源となりがちだ。それらのメディアでは政治経済的な分析よりも目を引きやすい、「難民危機」や「英国の独立」を謳うセンセーショナルな報道が多く、それを目にすることで不安が更に増幅していったのではないだろうか。実際、国民投票実施後にGoogleで「EUとは何か?」「離脱したらどうなるのか?」といった検索が急増したという報道からも、多くの人が情報不足の中で投票したことが推測される。