Brexitの背景にある、イギリス国内のさまざまな「格差」

割りを食った「労働者階級」

 前提として、英国社会における階級制度と、格差問題は似て非なるものであることを確認しておくべきだろう。公的には廃止されたとはいえ、階級制度は英国社会の中に根強く残っており、実生活の中でもしばしば「あの地域はすごくミドルクラスっぽい」「彼はワーキングクラスの家庭出身だ」などというフレーズを耳にすることがある。いわゆる庶民の中で比較的高所得でホワイトカラーなのが中流階級、低所得でブルーカラーなのが労働者階級とされるが、どの階級にもそれぞれのプライドがあるようだ。労働者階級は手に職を持ち、産業革命時代から英国の成長を前線で支えてきた階級という誇りもあり、貧富の格差という文脈において語られる「貧困層」とは異なっている。  しかし、近年のグローバル化はそうした誇り高い労働者階級を置き去りにしてきた。中流階級の多くの人々は、海外からの留学生も多く集まる大学に通い、あるいはEU内の制度を利用して欧州各国に留学し、卒業後は都市圏で大手企業に勤めたり専門職に就き(多くの場合は欧州のマーケットとのやりとりも発生する)、休暇にはヨーロッパでバカンスを楽しむ。EUからの恩恵を様々な場面で受けているのだ。それに対し、労働者階級にはカレッジなどで技術を身につけるため大学に進学しない人も多く、建設業や技術職は低賃金での労働を厭わない移民の流入により最もあおりを受け、バカンスどころではない。その上、リーマンショック以降政府は低迷する経済の打開策として、大幅な財政緊縮と金融緩和に踏み切った。これにより、金融業界は世界市場の中で利益を上げ表向きは経済が回復したが、労働者階級にはその利益は回らず、緊縮策による福祉予算の削減が彼らを直撃した。そこに移民が増えることで、さらに病院や学校が圧迫されるとの不安が広がっていった(実際には、病院で働く医療関係者や学校の教師には移民が多く、移民なしでは福祉サービスが更に逼迫するという見方も多いのだが)。
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残留/離脱を分けた「地方vs都市」「世代間」格差
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