日本人はなぜ不安なのか? 40年前に書かれたライシャワーの洞察

日本人が抱える「漠たる不安」

 加えて、こうした自由貿易による繁栄は、もともと自らを“他とは違う民族”と考えていた日本人にとっては劇的な変化だった。つまり、日本は世界からは孤立しており、「われわれ」(日本人)と「彼ら」(その他世界)といった具合に壁を設けて区別していたところへ、急速な近代化がやってきた。言ってみれば、“世界”が無理やり入りこんできたのである。  戦後からの輝かしい成果を見れば、経済や商売の面では、なんとか対応してきたと言えるだろう。それでも日本人の間に、どこかもやもやとした気分が残っているのは否めない。ライシャワーの指摘に、はっとさせられる。 <現に日本人の胸中には、世界における自分たちの地位についてはもちろん、自分たちが一体なんでありだれであるかについてすら、深刻な不安が存在する。>(3 孤立)  稼ぐには稼いだが、そこから先どうしたらいいか分からずにいる、というのだ。その富を利用して構築すべき社会のビジョンが描けずにいる。しかし、そのことに向き合う間もなく、奇跡的な幸運に恵まれた“日本のターン”は終了した。  そして残ったのが、漠然とした恒常的な不安だと言えないだろうか。20代や30代の若者が、最も関心を寄せるテーマが老後や年金についてだ。それもライシャワーに言わせれば、当然の帰結なのかもしれない。 <日本の急激な変化を思うと、現在の、人目には満足げに映る安定状態が、未来永劫につづくとは、だれも確言できない。急激な変化にどう対応していくかは、あらゆる工業社会が今日面と向かっている難問であり、この点で日本が直面するであろう困難は、他にも増して苛烈であるかもしれない。変化のスピードは他国よりも早いのに、その物質的な基盤は、明らかに貧しいからである。>(22 心理的諸傾向)  土地価格の高騰が物価を押し上げる一方、賃金の上昇は頭打ち。これは工業化が終了した先進国が必然的にたどり着く問題であり、政治が即効薬を提示できるような生やさしいものではない。近代工業社会として最も成功した国のひとつであるがゆえに、かかる困難も膨れ上がってしまったのだ。そうした負債を最もシビアに引き受けなければならないのが、いまの20代や30代の若者だとすれば、日本にはどのような未来が待ち受けているのか、20代や30代にとってはもとからある不安にさらに不安が上乗せされた状況になっているのだ。
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近代後の導き手としての日本
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