次に貸借対照表(BS)からサイバーの財務状態を見ていこう。全体的には良好で、借入金は10億円にも満たない。’13年度にFX事業から撤退して以降、財務の安定性を示す指標である自己資本比率も改善した。
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サイバーエージェントの自己資本比率(過去5年分)
保有する現預金はおよそ300億円。しかし、実はこの額はIT企業の中ではそう多い方ではない。
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大手IT企業5社の現貯金。mixiの現貯金の高さが際立つ
例えばDeNAはほぼ同規模の時価総額の会社でありながら倍近い現金を持っている。近年凋落が著しいと言われるグリーもそれ以上現金を持っているし、mixiに至っては保有現金が1200億円にも達する。ソーシャルゲーム一本足でやっている企業ほど、手元に残る現金は多いということだろう。
キャッシュフロー計算書(CF)を見てみると、本業で稼いで入ってきたお金を示す「営業キャッシュフロー」に関しては、mixi以外のネット企業からは遅れを取っていない。
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大手IT企業5社のキャッシュフロー
しかし、投資している額を示す「投資キャッシュフロー」(マイナスの値が大きければ大きいほどたくさん投資をしている)をみると、DeNAの半分程度しかない。積極的な新規事業投資を謳っているが、実際に使っているお金は実はそう多くないということだろう。
ただ、連結している子会社の数でみると、サイバーエージェントの小会社数はDeNAを凌ぎ、それ以外の3社を圧倒している。子会社をたくさん創り、社員に経営を経験させるというのは口だけのスローガンではなく、実態が伴っているようだ。
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大手IT企業5社の連結子会社数
投資額や保有現金の絶対的な少なさから、おそらく少額でたくさんの会社を創って結果が出なければ潰し、また新しいのを創らせる……というサイクルをたくさん回していると思われる。サイバーエージェントの手がけるサービスは3年以内に早期終了するものも多い。
結論として、サイバーエージェントはIT企業のなかでは、売上原価が構造的に高く、圧倒的に儲けるのは難しい、保有現金もそう多くないため、大胆な戦略を取るのは難しい。その代わり多角化で安定しているという、イケイケな会社のイメージとは裏腹の堅実経営を行っているといえる。
<文/大熊将八>
おおくましょうはち○瀧本哲史ゼミに属する現役東大生にして、東大・京大でベストセラーの企業分析小説『
進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者