ムスダンは今回の発射こそ一応の成功を見せたが、これまで6発中5発が失敗していることから、兵器として完成したとは言いがたい。また、成功した6発目と失敗した5発目は同じ22日に行われており、それ以前の4発の発射も、今年4月から5月にかけてのきわめて短期間に連続して行われ、そして失敗している。この失敗の原因が、機体の設計そのものにあったのか、それとも部品の品質にあるのかといったことは不明だが、どちらにせよこの短時間では、失敗のたびに十分な原因究明が行われたとは考えにくく、技術開発の進め方としては邪道と言わざるをえない。
しかし、今回の一応の発射成功によって、ムスダンが曲がりなりにも飛べること、そして中距離弾道ミサイルとして一定の性能をもっていることは実証された。今後も試験を重ねる中で成功率が上がれば、日米にとって大きな脅威となろう。
とくにR-27の技術は、現在北朝鮮がすでに保有している「ノドン」や「テポドン」といったミサイルと比べると数段上であり、この技術をものにし、さらに発展させれば、ミサイルの性能や能力を大きく向上させることができる。
北朝鮮はすでに、「銀河3号」というロケットを使い、人工衛星の打ち上げに2度成功している。周知のとおり、このロケットは大陸間弾道ミサイルとしても使用可能で、日米などは「テポドン2」、もしくは「テポドン2改」と呼んでいる。しかし、テポドン2は打ち上げまでの準備に時間がかかる上に、発射台も固定式で外に露出しているため、打ち上げまでの準備状況が偵察衛星から丸見えであり、ミサイルとしての利用価値はほとんどない。またエンジンの性能なども低いため、図体も大きい。
しかし、北朝鮮はすでに、新型の大陸間弾道ミサイルを、少なくとも2種類開発していることが知られている。これらのミサイルは暫定的に「KN-08」と「KN-14」と呼ばれており、ムスダンと同じく移動式発射台からの発射が可能で、また機体も小型であるため、発射の兆候が掴みづらい(もっとも日米韓は、今回のムスダンの発射をすでに前日のうちに察知していた)。
そして、このKN-08やKN-14のエンジンは、ムスダン(R-27)のエンジンを2基束ねていると推測されている。実際、今年4月に北朝鮮は「大陸間弾道ミサイル用のハイパワーな新型エンジン」と称するエンジンの試験を行っているが、その映像と今回のムスダンの写真とを比べると、それが正しい可能性が高い。
KN-08やKN-14はまだ一度も発射されたことはないが、本当にエンジンが共通しているのであれば、今回のムスダンの成功によって、KN-08とKN-14の最初の発射とミサイルの完成も近付きつつあるということを意味している。
今回の発射試験によって、ムスダンがおそらくは中距離弾道ミサイルとして十分な飛行距離をもっていることがほぼ実証されたことで、米国にとってはグアムへの攻撃が現実のものになりつつある。そしてムスダンの技術が新型の大陸間弾道ミサイルへつながれば、米国の本土への攻撃という可能性も現実味を帯びてくる。また、再突入試験に成功していれば、すでにノドンの射程に入っている日本にとっても大きな脅威となる上に、ロフテッド・トラジェクトリーによって、ムスダンによる日本への攻撃の可能性もありうるということになる。
北朝鮮にはまだ核兵器の小型化などの課題もあるが、いずれにせよ今回のムスダンの一応の成功は、ここ数年における北朝鮮のミサイル関連の出来事としてはとくに重大なことであり、大きな脅威として受け止めるべきであろう。
<文/鳥嶋真也 画像/
경애하는 김정은동지께서 지상대지상중장거리전략탄도로케트 《화성-10》시험발사를 현지에서 지도하시였다(YouTube)>
とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。
Webサイト:
http://kosmograd.info/
【参考】
・防衛省・自衛隊:北朝鮮による弾道ミサイルの発射について(
http://www.mod.go.jp/j/press/news/2016/06/22c.html)
・防衛省・自衛隊:北朝鮮による弾道ミサイルの発射について(
http://www.mod.go.jp/j/press/news/2016/06/22d.html)
・A Partial Success for the Musudan | 38 North: Informed Analysis of North Korea(
http://38north.org/2016/06/jschilling062316/)
・North Korean HS-10 missile(
http://www.b14643.de/Spacerockets/Diverse/Musudan/index.htm)