ソ連の潜水艦発射式弾道ミサイルを改造した「ムスダン」
ムスダンは北朝鮮が開発した中距離弾道ミサイルで、ソヴィエト連邦で開発された「R-27」という潜水艦発射型の弾道ミサイルが原型になっているといわれる。
R-27は1960年代の末、当時のロケット技術の粋を集めて開発されたミサイルで、たとえばエンジンは高い性能が出せる複雑な仕組みを採用する一方、弾道ミサイルとしていつでも撃てるように、メンテナンス・フリーを実現している。さらに、潜水艦に搭載するために全長を短く抑える必要があったことから、ロケット・エンジンを燃料タンクに沈み込ませるという、きわめて複雑な構造も採用している。
ソ連では1988年までにすべて退役しているが、その後1990年代に、ソ連崩壊の混乱に乗じて、北朝鮮がR-27の技術を手に入れたといわれている。ただ、たとえば実機を手に入れたのか、エンジンなどの部品のみ手に入れたのか、開発や生産に関わったロシアの技術者からどのような指導があったのかなど、その程度についてははっきりしない。
その後、2006年以降の軍事パレードなどで披露されることはあったが、実際に発射されることはなかった(イランへ持ち込まれ試射されたという話はある)。しかし、今年4月15日になり、北朝鮮で初の発射試験が実施された。だが発射から数秒後に爆発して失敗に終わったとされる。4月28日にも再度発射を試み、計2発が発射されたものの、やはり失敗。さらに5月31日にも1発が発射されるも、これも失敗に終わったことが確認されている。今回も1発目の失敗を経て、通算6発目にしてようやく一応の成功を見たことになる。
1990年代に技術を手に入れ、約20年経った2016年になってようやく1発が成功したというのは、R-27の技術がそれだけ複雑で、北朝鮮が自らのものとするのに相当手を焼いたということである。ただ逆に言えば、R-27の技術にそれだけの手間と時間をかけるだけの価値があると、北朝鮮が認識しているということでもあろう。
6月23日に朝鮮中央通信や労働新聞が公表したムスダンの写真を見ると、ムスダンはR-27と瓜二つである。エンジン部分の構造や、エンジンから出る炎の色などもR-27と同じで、手が加えられた形跡は見当たらない。つまり北朝鮮は、R-27の複雑なエンジン技術を、そっくりそのまま手に入れたということを示唆している。
一方、R-27とは異なる点もある。たとえばムスダンはR-27より約2mほど全長が伸びていることがわかっている。これは過去の軍事パレードでお披露目された際にすでにわかっていたことで、推進剤の搭載量を増やし、飛行距離を伸ばすための改良と見られている。
今回の発射成功時の写真で初めて判明したのは、機体の後部に8枚のグリッド(格子状)フィンが装備されていることである。このようなフィンはオリジナルのR-27には無く、そればかりか過去の軍事パレードに登場したムスダンにも無かった。理由は不明だが、おそらく全長を伸ばしたことや、北朝鮮製の弾頭や部品を装着したことでR-27とは特性が変わり、そのままでは機体が安定しなくなったため、その対策として装備する必要が生じたのではと考えられる。
もう少し憶測を進めれば、もともとは軍事パレードに登場した機体のようにフィンは付けていなかったものの、今年4月から5月にかけて行われた発射試験での相次ぐ失敗を受け、問題点を認識し、その結果装着するようになったとも考えられる。