海外で話題沸騰中のニーチェ本にみる、日本の教育政策の危うさ

ニーチェの語る「教育」の意義

 ニーチェの考える教育とは、ひとつは、過去の作家や芸術家の全的な偉大さに、“正しく”感じ入る心を育むことだという。  他者とのせせこましい競争を超越して、自己の内面を鍛える修養。その前提となるトレーニングを施すのが、教育の役目だというのである。しかし、それは昨今流行りの“リベラルアーツ”なる呼称が与える自由なイメージとは全く異なる。  ニーチェは、若い軍人が正式な歩行を習得する過程にたとえて、こう論じている。
<彼は脚の腱がちぎれてしまうのではないかと恐怖に襲われる。教えられた通り、決められた通りの型では自然に歩けないと絶望し、自らのぎこちない足の運びに衝撃すら受ける。そして最後には、適切な方法を学ばない限りは、ただ歩くことすらままならないのだと思い知る。>
 そうして訓練された言語をもってしてはじめて、芸術作品に触れる資格が与えられるというのだ。だがこのような話になると、“で、何の役に立つの?”とか、“それで収入アップするわけじゃないでしょ?”といった反応があがるだろう。
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「目的ありき」の教育が生み出す歪み
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