イーロン・マスクのロケットがまた快挙、過去最高難易度での着地に成功

ファルコン9ロケットの打ち上げ Photo by SpaceX

これまでより難しい形式での回収

 現在運用されているすべてのロケットは、基本的に第1段、第2段……と機体が複数に分かれており、まず第1段で加速し、燃料を使い切ると第2段と分離。第2段はそれまで第1段が稼いできた速度と高度を受け継いでさらに加速し、一方の第1段はそのまま地球に落下し、地上や海上に落として処分するという飛び方をしている。  ファルコン9ロケットの回収方法は、これまで落として捨てていた第1段機体を、うまく制御して、地上や海上の船に降ろすというものである。  ただ、一口にロケットが落ちてくるといっても、どういう衛星を、どういう軌道に向けて打ち上げるかによって、その落ち方は変わってくる。  これまでに成功している2回の着地では、(もちろんそれ自体は難しい技術ではあるものの)比較的軽い衛星を地球に近い軌道に向けて打ち上げた。そのため、ロケットの速度はそれほど高くなく、また着地するのに必要な十分な余裕を残すことができ、ロケットは降下する速度やコースを十分に制御しながら着地することができたのである。  しかし、こうした着地しやすい条件になる打ち上げの機会はあまり多くない。打ち上げの需要のうち、少なくとも半分以上は、より重い衛星を、より遠くまで飛ばすような打ち上げ、つまりロケットの速度が高く、残燃料の余裕も少なくなる条件の厳しいものが占めている。速度が高いと制御は難しくなり、また使える燃料も少ないため、余裕をもって速度を落とすこともできない。たとえるなら、低速走行からブレーキをやんわり踏みながら停止線にぴたりと止まるのと、高速走行から停止線直前でブレーキを一気に踏み込んで止まるぐらいの違いがある。  ただ、逆に言えば、この余裕が少ない中でも確実に回収することができれば、それだけ回収できる頻度が上がり、ロケットを再使用できる回数が増え、打ち上げ毎のコストダウンにつながる。スペースXが目指す打ち上げコスト100分の1の実現のためには、この回収頻度を上げることが大きな意味を持つのである。
次のページ
船上着陸成功への課題
1
2
3
4
5
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会