ボーカルは自殺、ライブで豚の頭を投げる……過激バンドの実話『ロード・オブ・カオス』 その「異常なだけではない」魅力とは

冒頭のテロップの意味とは

 この『ロード・オブ・カオス』の冒頭では、「Based on truth, lies and what actually happened(事実と虚構、そして本当に起こったことに基づく物語)」というテロップが表示される。  ジョナス・アカーランド監督によると、「Based on truth, lies(事実と虚構)」としたのは、「映画として成立させるために、ストーリーに多少の変更を加える自由も必要だった」ことの他に、「この映画を作り始めた時は可能な限り事実に基づこうと考えたが、『誰も真実は知らないこと』にも気づいた」「何事にも、人それぞれのストーリーがあって、それらは常に変わり続けている」ということも、大きな理由になっていたのだそうだ。
© 2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC

© 2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC

 つまり、メイヘムの物語には、当事者のみならず外部からの視点でもさまざまな解釈があるということだが、「メンバーから死者が出たことや、教会が焼かれたことなどの、はっきりとした事実もある」と、ジョナス監督は語っている。「人それぞれのストーリーの上に、さらに実際の出来事がある」ことにも気づいたからこそ、「and what actually happened(と実際の出来事)」も付け加えたのだという。  これは、どうしたって「真実」がわかりようもない、実話を元にした映画としては誠実なアプローチだろう(もちろん、関係者たちへの綿密な取材もしている)。そして、本作はブラックメタルバンド全般はもちろん、メイヘムを糾弾するような目的では、全く作られてはいない。「この邪悪に『見える』『なってしまった』バンドは実在していたけど、その裏では、こういう切ない事情があったかもしれないよ」と、彼らの痛々しく切ない人生を慈しむような、優しささえ感じることができたのだから。そのためにも、「Based on truth, lies and what actually happened」のテロップは必要だったのだろう。  とはいえ、やはり本作はR18+指定。スクリーンから目を背けてしまいそうなほどに痛々しい自傷行為がはっきりと映し出される他、倫理的に間違っていると断言できるシーンのオンパレードである。クライマックスでの、凄まじいという言葉では足りない「あの」一連のシーンは、トラウマになってしまう方もきっと出てくるだろう。その異常の渦の中で、「何」を感じ取れるかは観る人しだい。劇薬と言うべき、規格外の青春音楽映画として、ぜひ覚悟の上で観ていただきたい。 <文/ヒナタカ>
雑食系映画ライター。「ねとらぼ」や「cinemas PLUS」などで執筆中。「天気の子」や「ビッグ・フィッシュ」で検索すると1ページ目に出てくる記事がおすすめ。ブログ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」 Twitter:@HinatakaJeF
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会