過激なライブパフォーマンスを繰り広げた「メイヘム」
© 2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC
3月26日より、イギリス・スウェーデン・ノルウェー合作の映画
『ロード・オブ・カオス』が公開されている。
同作は、悪魔崇拝主義を標榜し、ブラックメタル黎明期の中核的存在だったノルウェーのバンド「メイヘム」の狂乱を描く青春音楽映画だ。劇中で、そのメンバーは自身の身体を切り刻み、観客にその血をかけた上、豚の頭を投げるなどの異常なライブパフォーマンスをし、その後にヨーロッパで社会問題となる事件を起こす。その他にも直接的に肉体を傷つけるシーン、また性的な意味でも過激なシーンがあり、R18+指定がされていることには誰もが納得できるだろう。
だが、その異常さや過激さだけで捉えるのはもったいない、「切なく痛々しい人間ドラマ」としての側面もあることが、この『ロード・オブ・カオス』の大きな魅力でもあった。理由は後述するが、日本でも大ヒットしたクイーンの伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)や、エルトン・ジョンの半生を赤裸々に綴った『ロケットマン』(2019)が好きな方にもおすすめできる理由があった。さらなる作品の特徴を記していこう。
1987年のノルウェー・オスロ。19歳のギタリストのユーロニモスは、真のブラックメタルを追求するバンド「メイヘム」の活動に熱中していた。ある日、親友のボーカルがショットガンで自殺をしてしまう。発見者となったユーロニモスは、なぜか救急車や警察を呼ぶことなく、脳が飛び散ったその遺体の写真を撮ってしまう。
ユーロニモスは、その異常な行動をバンドメンバーに糾弾され、そのメンバーは即座に脱退もする。だが、皮肉にもボーカルの死を契機にメイヘムはさらに若者の関心を集め、カリスマ化していく。その遺体の写真は、ブートレグ(海賊版)として発売されたアルバム「Dawn of the Black Hearts」のジャケットに使用されたという事実もある。ユーロニモスが飛び散った頭蓋骨の欠片をネックレスにしたという証言もあるという。
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自殺した親友の遺体の写真を撮り、かつバンドの宣伝に利用したかのようなユーロニモスを、異常で非人道的だと言うのは簡単だ。だが、劇中では、そこに確かな友情があったこと、その遺体の写真が慈しむように撮られていることも、存分に伝わるだろう。
その死んだボーカルはライブパフォーマンスで自身の身体を切り刻んでおり、ショットガンでの自殺の寸前にも痛ましい自傷行為をしていた、「死に取り憑かれた」ような人間でもあった。ユーロニモスがその遺体の写真を撮るという行為は、「彼のありのままの姿を残したい」という想いにも思えてくる。
「なぜ親友の遺体を撮ったのか」の解釈は見た人それぞれで異なるだろう。それは、恣意的に受け手を誘導しない、劇映画だからこその面白さであり魅力でもある。客観的には異常そのものの行為であっても、「それだけではない」複雑な感情や、人間の「業」なようなものを受け取れるのだから。