この『ロード・オブ・カオス』の冒頭では、「Based on truth, lies and what actually happened(事実と虚構、そして本当に起こったことに基づく物語)」というテロップが表示される。
ジョナス・アカーランド監督によると、「Based on truth, lies(事実と虚構)」としたのは、「映画として成立させるために、ストーリーに多少の変更を加える自由も必要だった」ことの他に、「この映画を作り始めた時は可能な限り事実に基づこうと考えたが、『誰も真実は知らないこと』にも気づいた」「何事にも、人それぞれのストーリーがあって、それらは常に変わり続けている」ということも、大きな理由になっていたのだそうだ。
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つまり、メイヘムの物語には、当事者のみならず外部からの視点でもさまざまな解釈があるということだが、「メンバーから死者が出たことや、教会が焼かれたことなどの、はっきりとした事実もある」と、ジョナス監督は語っている。「人それぞれのストーリーの上に、さらに実際の出来事がある」ことにも気づいたからこそ、「and what actually happened(と実際の出来事)」も付け加えたのだという。
これは、どうしたって「真実」がわかりようもない、実話を元にした映画としては誠実なアプローチだろう(もちろん、関係者たちへの綿密な取材もしている)。そして、本作はブラックメタルバンド全般はもちろん、メイヘムを糾弾するような目的では、全く作られてはいない。「この邪悪に『見える』『なってしまった』バンドは実在していたけど、その裏では、こういう切ない事情があったかもしれないよ」と、彼らの痛々しく切ない人生を慈しむような、優しささえ感じることができたのだから。そのためにも、「Based on truth, lies and what actually happened」のテロップは必要だったのだろう。
とはいえ、やはり本作はR18+指定。スクリーンから目を背けてしまいそうなほどに痛々しい自傷行為がはっきりと映し出される他、倫理的に間違っていると断言できるシーンのオンパレードである。クライマックスでの、凄まじいという言葉では足りない「あの」一連のシーンは、トラウマになってしまう方もきっと出てくるだろう。その異常の渦の中で、「何」を感じ取れるかは観る人しだい。劇薬と言うべき、規格外の青春音楽映画として、ぜひ覚悟の上で観ていただきたい。
<文/ヒナタカ>