生活リズムも整った。
「昼夜逆転生活が20年間続いていたのだけれど、ウーバーをはじめてから1か月もしないで治った。昼夜逆転がしんどくなって、10時くらいに起きるようになった」と健康的に。
月に40万~50万円も稼ぎ、生活は変わったのだろうか。
「買ったものは、以前より大きめの電子レンジ。ほかには、キッチンのLED照明くらいかな。それだと弟も使えるし。普段は欲しいものが特にない」と物欲が湧かないのだという。
ささやかな買い物のほかには、寄付をした。LGBTの居場所活動をしている団体に送ったのだ。
「以前、ひきこもりからのリハビリでそこに行ったら、優しくしてくれてすごく嬉しかった。だから、ささやかながら恩返し」
また、Amazonで見知らぬ人たちのウィッシュリストを見て周り、3000円程度の品物を適当に送ったりもする。
「ウーバーが終わって、風呂に入っていたりすると気持ちが高揚して、誰かに何かをあげたくなる」とプレゼント欲にも目覚めたらしい。
“社会復帰”したように見えるIさんだが
「就労施設や、ハローワークに行くのは怖い」という。
「何を言われるのかわからなくて怖い。『この年で何をしてるんですか』とか。でもウーバーの配達員はアプリ登録だけで面談もないし、履歴書もいらない。登録だけして、嫌ならやらなきゃいい。自分には敷居が低かった」と、ウーバーの仕組みが合っていると語る。
しかし
「ウーバーもいつまで続けられるのかわからない。報酬体系が突然変わってしまうこともある」と、ずっと続けられる仕事ではないと感じているようだ。
決意させてくれたきっかけは、絶縁していた父親からの仕送り
「”ウーバーハイ”が訪れると、どんどんこなせる」。人並み以上に努力している感じはないという
最初は「興味本意で」はじめたと語ってくれていたが、よく聞いてみるとほかに理由があった。
Iさんは父親とはほぼ関わっていない。
「親父は仕事人間で、家にもほとんど帰って来ない。子どもにも無関心。15歳から3回くらいしかしゃべっていない」と家庭内断絶状態だった。
しかしその父親が、昨年の夏に突然、口座にお金を送金してきた。父親からのメールには
「私ができるのはこれまで。これでなんとか生きていってください」と書かれていた。
「これがすごく大きかった。お金をくれたからじゃない。あの親父が、俺のために動いた。ああ、俺、親父にこんなことまでさせてまで、ひきこもり続けているの無理だ」。その時を境に
「何かが変わった」と言う。
「このままじゃダメだ。俺、やらなきゃダメだ」。それが配達バイクのハンドルを握るきっかけとなった。