ひきこもり14年の男性が、月50万円稼ぐウーバー配達員になった理由

生活リズムも、お金の使い方も変わった

 生活リズムも整った。「昼夜逆転生活が20年間続いていたのだけれど、ウーバーをはじめてから1か月もしないで治った。昼夜逆転がしんどくなって、10時くらいに起きるようになった」と健康的に。  月に40万~50万円も稼ぎ、生活は変わったのだろうか。「買ったものは、以前より大きめの電子レンジ。ほかには、キッチンのLED照明くらいかな。それだと弟も使えるし。普段は欲しいものが特にない」と物欲が湧かないのだという。  ささやかな買い物のほかには、寄付をした。LGBTの居場所活動をしている団体に送ったのだ。 「以前、ひきこもりからのリハビリでそこに行ったら、優しくしてくれてすごく嬉しかった。だから、ささやかながら恩返し」  また、Amazonで見知らぬ人たちのウィッシュリストを見て周り、3000円程度の品物を適当に送ったりもする。「ウーバーが終わって、風呂に入っていたりすると気持ちが高揚して、誰かに何かをあげたくなる」とプレゼント欲にも目覚めたらしい。 “社会復帰”したように見えるIさんだが「就労施設や、ハローワークに行くのは怖い」という。「何を言われるのかわからなくて怖い。『この年で何をしてるんですか』とか。でもウーバーの配達員はアプリ登録だけで面談もないし、履歴書もいらない。登録だけして、嫌ならやらなきゃいい。自分には敷居が低かった」と、ウーバーの仕組みが合っていると語る。  しかし「ウーバーもいつまで続けられるのかわからない。報酬体系が突然変わってしまうこともある」と、ずっと続けられる仕事ではないと感じているようだ。

決意させてくれたきっかけは、絶縁していた父親からの仕送り

「”ウーバーハイ”が訪れると、どんどんこなせる」。人並み以上に努力している感じはないという

「”ウーバーハイ”が訪れると、どんどんこなせる」。人並み以上に努力している感じはないという

 最初は「興味本意で」はじめたと語ってくれていたが、よく聞いてみるとほかに理由があった。  Iさんは父親とはほぼ関わっていない。「親父は仕事人間で、家にもほとんど帰って来ない。子どもにも無関心。15歳から3回くらいしかしゃべっていない」と家庭内断絶状態だった。  しかしその父親が、昨年の夏に突然、口座にお金を送金してきた。父親からのメールには「私ができるのはこれまで。これでなんとか生きていってください」と書かれていた。 「これがすごく大きかった。お金をくれたからじゃない。あの親父が、俺のために動いた。ああ、俺、親父にこんなことまでさせてまで、ひきこもり続けているの無理だ」。その時を境に「何かが変わった」と言う。 「このままじゃダメだ。俺、やらなきゃダメだ」。それが配達バイクのハンドルを握るきっかけとなった。
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お金よりも嬉しかったことは、「十何年ぶりにホッとした」こと
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