ロンドン再封鎖6週目。ワクチン接種もマスクと同じ、他者のために<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

ワクチンを促す多国語ガイダンス

ワクチンを促す多国語ガイダンスは、お年寄り向けパンフとともに郵送でも到着。現実が先行してキャンペーンが後手に回っているようです。貧しい人や老人のために、ぜひ接種を!

今回ばかりは「注射打とうね」と思う

 そういえば注射のあと、自分が打ったワクチンの栞とともに様々な言語で「このナンバーに連絡してワクチン接種の予約をしてください」と書かれた紙を渡されました。これは住民登録のない人に向けてのメッセージ。マイノリティの家族には、そういう人もたくさんいますから。そして現在はつべこべいわず全員に打ってもらわないとダメな段階ってわけ。  英語を含め17ヶ国語で記されたそれは英国在住の人口比率に従っているわけでもなく、世界の使用言語人口に準じてもいない。ドイツ語やフランス語といったポピュラーな言葉もない。なのにルーマニアやアルバニア語はある。つまりはこれ、英国の貧困層における人種分布なんですよ。  日本人にもおられますね。ワクチン断固拒否みたいな方々。訊けばそれぞれにご尤もな理由を説明してくださいます。はいはい。御高説は承りました。が、これまで聞いてきたいずれもが「それゆえに他者(とりわけ貧困層)の感染するリスクを高めても致し方ない」と納得させてくれるものはありませんでした。  心に残るのは自分のためなら人が犠牲になっても平気な人なんだなという感想のみです。  ちょっとだけ自然農法のエピソードに似ています。都会からやってきたセーコーウドクの意識高い系のみなさんが農薬や化学肥料を一切使わない畑をこしらえちゃったせいで害虫が大量発生したり植物の病気が伝染して周りの畑も全滅しちゃったってアレです。有機栽培も無農薬も素晴らしいことですが地域で連携せずに生兵法で勝手に突っ走るとエライこっちゃになってしまうのです。   ◆入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns【再封鎖6週目】2/11-17 <文・写真/入江敦彦>
入江敦彦(いりえあつひこ)●1961年京都市上京区の西陣に生まれる。多摩美術大学染織デザイン科卒業。ロンドン在住。エッセイスト。『イケズの構造』『怖いこわい京都』(ともに新潮文庫)、『英国のOFF』(新潮社)、『テ・鉄輪』(光文社文庫)、「京都人だけが」シリーズ、など京都、英国に関する著作が多数ある。近年は『ベストセラーなんかこわくない』『読む京都』(ともに本の雑誌社)など書評集も執筆。その他に『京都喰らい』(140B)、『京都でお買いもん』(新潮社)など。2020年9月『英国ロックダウン100日日記』(本の雑誌社)を上梓。
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