ここで本邦において報道や行政による説明ではまだよく使われている
実効再生産数を見てみます。実効再生産数は、大きな社会性のSpikeが発生すると混乱するために多くの社会性Spikeが発生した12月から1月には余り意味のない数値を出していましたが、1月8日の菅政権による緊急事態宣言以降、大きなSpikeの発生もなく2月に入るとSpikeによる混乱は見られません。従って、現在のエピデミックの状態を知ることには有力な道具となります。
本邦におけるCOVID-19実効再生産数(西浦博博士の計算式による簡易計算) 2021/02/22現在(出典:
東洋経済オンライン)
本邦において実効再生産数は、2/13の0.73を最低値としてその後は上昇に転じており、現在0.9前後となっています。実効再生産数は1.0を境に、それより大きな値だとエピデミックは拡大に転じると説明されますが、実際0.9程度ですと半減時間(半減期)が数ヶ月を超えることとなり、その間に冬が到来したりSpikeが発生するなどで収束は破綻します。
〈*実効再生産数R0とは、ウィルスの増殖の程度を表す数値で、一定期間にウィルスが増えればR0>1となり変化無しでR0=1、減少でR0<1となる。このためウィルス対策の政策評価に使われることが多く、昨年5月頃までは米欧の報道でも頻繁に目にしたが、夏以降使われることは本邦と韓国を除き殆ど無くなっている。これは、エピデミックの波はSurgeとSpikeの二種類の波の合成波であり、実効再生産数R0は、しばしば突発性且つ一過性のSpike、多くは社会性のSpikeによって混乱し、判断材料にならないためであると考えられる。現在の様にSpikeによる影響がない場合は、季節性、非季節性を問わずSurgeの評価に有力な数値となる。本邦と異なり韓国では、社会性の全国的なSpikeは、あまり発生していない〉
本邦と酷似した傾向かつ、K防疫の成功によって本邦に先行して収束に向かっていた韓国でも、1月に生じた宗教施設起因の大規模Spike*以降、新規感染者数の下げ止まりが目立ち、現在は微増に転じています。韓国では実効再生産数がついに1を超えた(増加傾向が明らかになった)として、第四波エピデミックを警戒しています**。
〈*
新型コロナ、新たに559人が感染 宗教施設での集団感染が影響 2021/01/27 KBS WORLD Radio〉
〈**
新型コロナ 新たに357人感染 実効再生産数1を上回る 2021/02/23 KBS WORLD Radio〉
なお韓国では、実効再生産数が1を超え、明らかにエピデミックが再燃しつつあるこのときに、右派団体による大規模集会が三一節に計画されており*、またしても「防疫と自由の衝突」**という自由主義国家特有の深刻な問題が生じています。
〈*
極右団体、3月1日に集会を予告…民主党「防疫守則に違反、断固として中止を」2021/02/24 hankyoreh japan〉
〈**
[社説]“防疫”と”集会の自由”、バランスの取れた合理的な代案を2020/10/10 hankyoreh japan〉
最後に、IHMEによる世界、東アジア・太平洋島嶼国、日本、韓国、台湾についての真の新規感染者数の感染発生日での推測と予測*を示します。更新は2021/02/20現在です。現在、感染状況の変化が全世界で大きくなっていますので、更新ごとに過去に遡及して大きな見直しが行われています。
〈*感染発生日での予測なので、新規感染者数の統計に約14日先行する〉
なお予測は、赤破線(より悪いシナリオ)、紫破線(現状維持シナリオ)、緑破線(全員マスク着用シナリオ)について95%不確実性区間(信頼区間)付きで表されています。シナリオについては
IHMEによる説明をお読みください。
全世界での真の日毎新規感染者数評価と予測(2021/02/20現在)(出典:IHME)
全世界では、英国変異株の影響こそありますが、欧州、北米、中南米、中東、西アジア、中部アジアなどでのワクチン接種が進んでいるため、6月までは現状維持モデルで冬の季節性パンデミックほどではない見込みです。
東アジア・太平洋での真の日毎新規感染者数評価と予測(2021/02/20現在)(出典:IHME)
東アジア・太平洋は、謎々効果の影響下にありますが、ワクチン接種が遅れていることとマレーシア、インドネシア、フィリピン、日本という東部アジア・大洋州四大コロナ駄目国家を含むこと、豪州やニュージーランドが冬に向かうために現状維持モデルでも3月から6月にかけて最高で12月から1月の3倍程度の新規感染者の発生が見込まれています。とくに5月以降顕在化する南ア変異株によるエピデミックの影響は甚大となるという予測です。
日本での真の日毎新規感染者数評価と予測(2021/02/20現在)(出典:IHME)
本邦では、現状維持シナリオで3月から4月にかけて12月から1月と同程度の新規感染者の発生が見込まれています。本邦の特徴は、世界でもトップクラスのマスク着用率であり、マスクも不織布マスクが標準であるというここ十数年の習慣により、全員マスクシナリオと現状維持シナリオがほぼ同じであることです。
またPCR検査不足と統計の質の低さにより、95%不確実性区間(信頼区間)が極めて大きくなっています。そのため全シナリオで、殆ど何も起こらない予測から、冬のエピデミックの5倍近いという破滅的な予測まで大きな幅があります。
筆者は、基本的に現状維持シナリオの中央値を採用しています。
本邦については、接種の著しい遅れと接種規模過小により、ワクチン接種による抑制効果は評価されていないと考えられます。
韓国での真の日毎新規感染者数評価と予測(2021/02/20現在)(出典:IHME)
韓国では、K防疫が高く評価されており、英国変異株による春のエピデミックはショルダー(肩)が現れる程度の小規模と見込まれています。
但し、11月から12月にかけて予想外にエピデミックが成長したことから、95%不確実性区間は、12月並みの新規感染者発生の可能性を示しています。
韓国でもワクチン接種は遅れており且つ当初は規模が小さいために、あくまでK防疫によってエピデミックを抑制するという評価と考えられます。
台湾での真の日毎新規感染者数評価と予測(2021/02/20現在)(出典:IHME)
台湾では、水際防衛とクラスタ制圧が完璧に機能しており、英国変異株によるエピデミックは発生しないと見込まれています。但し、悪いシナリオでは、四月以降、南ア変異株による小規模のエピデミック発生が予想されており、95%不確実性区間は、中規模エピデミック発生の可能性も示唆しています。
〈*モンゴル、中国、ミャンマー以東の東部アジア、大洋州ではCOVID-19パンデミックによる被害が他の地域、特に米欧に比してきわめて小さい。筆者はこの事実に2020年2月末頃に気がつき、同3月には「謎々効果」(謎々ボーナスタイム)と名付けている。全く同じ効果を”Factor X”と呼称している人たちもいる。米欧メディアや研究機関が注目するものの、謎々効果の原因も正体も不明であった。謎々効果の原因は依然不明だが、正体はこの領域では感染率が当初米欧の1/1000程度に抑えられていることである。致命率(CFR)は謎々効果があっても米欧他と大きな差はない。謎々効果は、アフリカ大陸でもほぼ全域で見られている〉