「天井を見ているだけで忙しい」アーティスト田島ハルコが語るコロナ禍と自己の流動性

「クライアントワークって案外楽しい」

 音楽のほかにも手がけてみたい表現というのはあるのだろうか。 田島:音楽以外にではないんですが、人から頼まれる仕事がしたいし、クライアントワークって案外楽しいと思って。去年、TVの企画(「3時のヒロインmeetsガールズクリエイター」日本テレビ系、2020年12月8日放映)で3時のヒロインさんの曲を作らせていただいてから、またやりたいなと思っています。実は私は「自分の言いたいこと」というのが今はあまりなくて。  さっきも言ったけど、自分の表現はもともとパーソナルな領域の表現であって、それは世の中に向けて言いたいこと、というような感じとはちょっと違う。だから、何かの文脈で田島ハルコ的な表現が求められているから、それに合わせてパズルを組み立てていく、みたいな感じでやっていく、というのが、今は脳が楽しいです。 _P1A7905 フィーチャリングのミュージシャンが沢山いる曲を作る機会も少し前にあって、このパズルに何を当て込んだらいいのか、という発想で作品が作れたのが面白かった。「最初から自分で描かなきゃいけない、筋書きを考えなきゃいけない」というのに最近ちょっと疲れてきたところがあって。だから、そういう意味でもZoomgalsもラクとかいうとあれだけど(笑)、私は別に「かますぞ」とか思わないタイプなので、単にパズルをどう当て込んだらいいか、という思考なんです。何かと「かまそう」としてる人だと思われがちですけど(笑)。息抜きという意味でも自分のためにやることじゃなくて、誰かのためにやる仕事ができたら面白いな、と思っています。  あと、今私自身ライブができないモードになっていて、それはコロナだから、というのではなくて、私自身がまだ完成形に至ってない、というか、過渡期だからという感じで。昨年の1月、ギリギリコロナになる前に運良くワンマンライブができて。だいぶ不器用なステージしかできなくて、でもそれを「いい」、ってみんなが言ってくれてる、という充実した経験ができました。  その上で、これからは、「不器用な人」ではなく、普通に得意なことをやらせてほしい、と思っていたりもします。ステージに立ったり、人前に立ったりというのが苦手だけど、生々しくもあえて見せていく、みたいなのは、去年病んでいたこともあって今は怖いので。作り込んだものなら見せても平気かな、という感じです。私の身体性的な部分とかノイズ、っていうものを見せはするけど、それをまるっと見せていくというのとは違う見せ方をしたいかな。そういう種類の表現であれば、いろいろやってみたいですね。

影響を語る難しさ

 独自と言っていい世界を形作るアーティストだが、マンガや文学など、他ジャンルのもので影響を受けたものなどはあるのだろうか。 田島:影響の話は難しい。影響を受けた、というようなものが全然なくて、実際にはあるんだろうけど、私は自我の確立するであろう時期に今の活動のフォーマットにおそらく近いであろうエッセンスのもの、というのをあんまり摂取してこなかったので。だから、通ってなかったものを大人になってから通る、というようなことをやっています。なので、こういうのが好きで、というよりはインプットが勉強みたいになってしまう。純粋にこういうのが好きだな、というのは自分の創作とは全然関係ない脳の引き出しにこっそり存在しています。  「遅咲きギャル」という作品もあったが、その活動の根底には「生きなおす」、というモチベーションというか、人生の「後追い」の要素があるともいえるかもしれない。 田島:後追い要素。たとえばマンガなんかだと『GALS!』(藤井みほな著、『りぼん』に1998年から2002年まで掲載)はいちおうリアルタイムでも読んでたけど、おぼろげな記憶で、誰かに借りて読んだのかな…。同世代の子たちが興味を持って読んでいたようなものに対して、なんとなく乗っかってはいるけど、でも、あんまり夢中になっていたというのはなくて。でも当時のギャルへの憧れというか鮮烈なイメージは憶えていますね。  ギャルのマンガだと、2年前くらいに、『姫ギャルパラダイス』(和央明著、『ちゃお』に2009年から2012年まで掲載のシリーズ)を読んでて興味深いと思いました。『姫ギャルパラダイス』って主人公が男の子、というか男のギャルで、トランスジェンダーでもギャル男でもない。めっちゃかわいくて、スペックが高くて、すべてを手にしているギャルが、おしゃれが苦手な女の子をビシバシ指導していく、というような作品です。ビジュアルの世界観はまさにここ数年田島ハルコが目指していた感じってこれだな、という世界でもあります。私は影響を受けたものをあとづけで知っていく、というようなところがあるんですけど、なんとなくそういう世界観をイメージしながら曲を作っていたのが『姫ギャルパラダイス』の中にあった感じでしたね。  で、同時期に郊外のファンシーショップみたいなところに行ったら、同じように「めっちゃ、これだった!」みたいな世界でした。いずれにせよ、我々世代のノスタルジーを高解像度なCGで再現したような世界なんですよね。そんな風に、あとから、「あ、これだったんだ」みたいに無意識下で刷り込まれていることが多い。 今後のリリースの予定は。 田島:具体的な日にちはまだ決まっていませんが、随時告知していきますのでSNSなどチェックしていただければと思います! 田島ハルコ(たじまはるこ) 1992年10月26日生まれ。新潟県出身。インディペンデントなDIY精神でワックな社会に波風を立てるニューウェーブギャルラッパー/トラックメイカー。アートワーク・映像などもしばしば自身が手掛ける。幼少期から経由してきた2000年代カルチャーをはじめ、様々な時空間をサンプリング/コラージュ的に張り合わせて心象風景をユニークに表現する箱庭的な作風が特徴。6人の女性MCによるギャルサークル「Zoomgals」のメンバーとしても活動中。 <取材・文/福田慶太 撮影/鈴木大喜>
フリーの編集・ライター。編集した書籍に『夢みる名古屋』(現代書館)、『乙女たちが愛した抒情画家 蕗谷虹児』(新評論)、『α崩壊 現代アートはいかに原爆の記憶を表現しうるか』(現代書館)、『原子力都市』(以文社)などがある。
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