「天井を見ているだけで忙しい」アーティスト田島ハルコが語るコロナ禍と自己の流動性

女性性とアニムス

 2021年に入ってからは、髪を切ってイメージチェンジをしたこともあり、アニムス(女性の無意識の中にある男性的な部分)といったものを表現したいと語る。これまでは女性性といったものを評価してきたが、それは世間を惑わすために打ち出したもの、とも。 田島:女性のカルチャーやライフスタイルにまつわるフレーズを使うというのを自分のひとつの要素としてやっていたけど、それをもうちょっと別の角度からできたらいいかなと。私の場合、すごく女の子っぽいものが好きとかは案外なくて、男性を困惑させる表現という点で面白いと思ってそれらを取り入れています。たとえば「ちふれGANG」みたいな言語感覚がまさにそうなんですけど。ヒップホップのリスナーの主に男性層にとって、「こんなことを言われても」みたいなことをなるべくやってきました。  そういうのを経て、今はなんというか、自分の中にある男性的な、というか、アニムス的な要素とかが気になっている時期かなと。自分のジェンダーの部分は実はどこかしらずっと流動的なんだけど、その流動性は今まであまり見せてこなかったのもあり、表現として取り入れている「めっちゃ女の子」という記号性に引っ張られて自分のそういう部分が定義づけられていくのにちょっと疲れたというのもあります。  一方で、田島ハルコがめざす、ある種男性性的なエッセンスというのがなんなのか、と言われたら、あくまでもというか、実はマニッシュなレディースファッションが包括している領域で、なんて言うんだろう…なんか、普通に相変わらずの肉体の連続性、という感じ。形から入るとスムーズなんで、なるべく今まで着なかった服を買ったりしている時期に入っています。  髪型の変化は自らにとってもターニングポイントとなる。髪型や髪の色を変えると、セルフイメージも変わる。そのことで気分が変わる。 田島:そう。魅力的だなと感じている何かの要素に引きずられるぐらいのほうが制作の調子がいいというか。その方が、本心や本当にやりたいことというのが導き出されやすいのかな、と。もともと、田島ハルコ的なものには「男児」なエッセンスもあって、たとえばキラキラした自分のトレーディングカードとか作ったりとか、おもちゃの剣を持ってアー写を撮ったりもしていて。でも、全体的にカラフルでピンクだし、「女児」という言及がされがちだった。ジェンダーレスにしていくというより、そういう記号をうまく使いこなして流動性を表現したいという感覚があります。

「自分自身は絶え間なく流動していってる」

 しかし、受け手であるこちらから見ると一貫性が非常に強いという印象を受けるのも事実。『ちふれGANG』にせよ、『未来世紀ギャルニア』にせよ、いろんな角度から、総合的に自らを表現しているというか、ブレがないアーティストのようにも感じられる。 田島:「ちふれGANG」と「未来世紀ギャルニア」だとさほど時期も離れてないけど、その間の心境の変化、というのはいろいろあります。ある種の一貫性というのはまああるだろうけど、受け手次第でどう見えるかも違うと思う。この人、すごいめっちゃ変わってる、コロコロ変わってるな、と思う人もいるだろうし。  そもそも自分としては一貫してあるべきとは思ってなくて。変わっていっても全然いいじゃんと思うし、むしろ自分自身は絶え間なく流動していっている。髪色はこのまま一生ピンク系がいいと思っていた時期もあったけれど、なんかやっぱりそうじゃなかったし、同じ人間だから根本的に一貫はしてるだろうけど、これから先もだいぶ変わってくるんだろうなと思います。
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