「天井を見ているだけで忙しい」アーティスト田島ハルコが語るコロナ禍と自己の流動性

ぼーっとしているだけで忙しかった2020年

 パーソナルな表現が多くの人びとの感覚や意見を代弁することの副作用というか、自分は人びとが言いたくて言えないことを代行するために表現をしているわけではないということか。さて、これまでの表現スタイルからの変化を求めていた昨年は彼女にとってどのような1年だったろうか。 田島:去年は、今だったら自分は何をしたらいいのか、というのを自分なりに模索しつづけていていたんですけど、純粋にものを作るという時間が全然なかった、という感覚でした。自分が時代の流れに適応してしまうから、純粋なクリエーションをやる時間がなくなってしまう、というか、「今だったら」というのを考えすぎてしまったところがあります。自分の考えていることやセルフイメージのの代謝のペースが速すぎて、作るのも追いつかない、という感じもありました。自分の脳内をスキャンするというか、レンダリングするというか、情報を処理するようなことで精一杯だったかなと。自然に、考えることがどんどん出てきてしまうから、あまり創作に集中できなかった。ずーっと天井を見てぼーっとしているだけで忙しい。だから途中でSNSとかも見るのをやめて、一回自分を落ち着かせようとしたりした。去年はそういった感じだったから、今年はもう少し創作に取り組めたらいいかなと思っています。  「ずーっと天井を見てぼーっとしているだけで忙しい」。コロナ禍の影響もあり、とくに家に引きこもることが強いられがちな昨今、こういう経験をしたことがある人はそれなりにいたのではなかろうか。他人からはぼーっとしているように見えて、実際のところ、様々な事象や事物にたいして異様に思念が走っているような。そういったことで、ものを作る時間が確保できなかったという。 田島:昔はこんなことを考えていたな、とかあのときはこうだったな、と思い返すか、そういうことを処理している感じですね。急に昔聴いていた音楽を聴き返したりとか。そういう経験って実は人類に共通していたというか、懐古厨している人がまわりにも多かった気がしている。「ちょっと一度待ってくれ」、みたいな。 _P1A7963 みんなどうしても自閉的にならざるをえなかった。分からないけれど、それはある意味でよかったというか、自分だけが病んでいたんじゃなくて、世界全体がそうだったから。病んでいても孤独じゃないというのはあったかな、と。

世界中の人々が病んでいた「連帯感」

 世界中の人びとが、他者との接触を制限される中で「病んだり」、「懐古」していた。そのことで得られたのは、惑星規模での「連帯感」とでもいうべきか。しかし、その「連帯感」はSNSで共有できるものではないとも語る。 田島:そういう「連帯感」というのが、じつはSNSで可視化されていない。みんな案外病んでいないふりをしている、というか。要はTwitterだけだとその人のことは何も分からない。だから、何かしら共通の言語を持った人と話したりとか会ったりとかって大事ですよね。去年くらいから、素朴にそういうのが重要だなと改めて思いました。そういうので救われたりしつつ、孤独もあるけど、まあみんなそうだよな、というところで、病んでるといいつつも案外そこまでは、みたいになることもできた。
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