アメリカ大統領選の「陰謀論」にハマってしまった私~やらかした当事者が振り返る~

陰謀論は、サスペンス映画のように刺激的だった

Qアノンイメージ 1月20日、アメリカに新しくバイデン大統領が就任した。深夜にテレビで中継されるその映像を、私は複雑な思いで眺めていた。 「トランプがディープステート(世界を牛耳る闇の組織)をやっつけてくれる」 「今回の大統領選ではトランプが勝っていたのに、選挙に不正があった」 「バイデンの就任式に、選挙不正に関わった者たちの大量逮捕がある」  そういった「陰謀論」を信じて期待をしていたからだ。  実際には「大量逮捕」は起こらなかったし、「トランプが大統領専用機から全世界の電波をジャックして行われる」といわれていた緊急放送もなかった。睡眠時間を削りながら、深夜まで起きて情報を集めていた自分がむなしく、詐欺にあったような気持ちになった。  マスクをしないで“蜜”になりながら支持者に囲まれ、自分の政権の成果を語るトランプ氏を見て、私の周りにもいるコロナ感染者の顔を思い出し、急激に冷めていくのを感じた。  こういった集会がクラスターを発生させていたことが、アメリカの感染者が多い一つの理由ではないのか……。今年1月6日に議会を襲撃したトランプ支持者たちの行動は、アメリカだけでなく世界を二分した。5名の方が亡くなったことは特にショックだった。 「ひょっとして、私は真実ではない情報をSNSなどで積極的に拡散し、暴力を肯定・拡散する側に回っていたのではないだろうか……」  ふとそう思い、私は愕然とした。 「Qアノン」と呼ばれる陰謀論グループは「長年世界を支配してきた小児性愛・人身売買組織を退治するヒーロー」としてトランプ氏を祀り上げてきた。トランプ氏が再選すれば「ディープステートや、世界にフェイクニュースを流していたマスコミが一掃される」という主張はサスペンス映画のように刺激的で、私もそれにハマってしまった者の1人だ。  なぜ私はQアノン側の陰謀論に惹かれたのか。そして、それらの情報のどこが間違っていたのか。自戒の意味を込めて、検証してみたい。

「民主党のセレブが子どもたちを食い物にしている」というストーリー

アメリカの子供イメージ 私は映画関係の仕事をしていて、映画への出資者とのつながりがある。ある野党大物政治家の政治資金を支援している投資家から、5年前に小児性愛・人食い風習についての写真を見せられたことがあった。子どもと思えるサイズの人体が、血だらけでパックに入っているような残酷な写真だった。 「西麻布にある秘密クラブで、夜な夜な政治家と芸能界関係者が接待をしている。最も秘密な会合では人肉を食べる。若返りに効く」という、にわかには信じられない話だった。「そんなことはありえないことだろう」と数年間、誰にも言わず胸に秘めていた。  その後、Qアノンが「民主党の政治家やセレブが子どもたちを食いものにしている」との主張を目にして、「あの時の話は本当だったのかもしれない」と思い始めた。
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「誰か」にとって都合がいいだけの物語
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