自分が「正しい」と思い込んだ主張の裏づけとなる情報しか見えなくなる怖さ
一度ものごとを疑い始めると、人はその疑いを裏づけする情報ばかりを集め始めてしまう。YouTubeやSNSでのつながりも、似た意識を持った人たちが多く集まるようになってくる。私も、英語や日本語で関連記事や動画を調べるようになった。
YouTubeはユーザーの視聴記録に合わせて似たような動画を「おすすめ動画」として次々に自動再生していく。
それを見続けているうちに、寝る前に陰謀論関連の動画を見ることが習慣となった。それがちょっとした楽しみにもなっていた。
ほとんどの動画や記事は憶測レベルのものだが、トルコの全国ネットテレビ局TGRTでもこの問題を報じていた。
アメリカの政界とつながりのある資産家ジェフリー・エプスタインが、少女たちを性的搾取目的で人身取引していたことで逮捕・起訴された。アメリカ・ドイツ・アイルランド・日本など7か国でカトリック教会関係者が未成年への性暴力を起こし、有罪判決が下された。
小児性愛犯罪が存在すること自体は、事実なのだ。その
事実の断片の集積が、陰謀論までもが事実なのだと私に思い込ませるようになっていった。そして、陰謀論を否定するような主張や事実は
「マスコミのフェイクニュースに踊らされている」ものとして、切り捨てていったのだ。
事実を織り交ぜて作られる、“誰かに都合の良い物語”に注意
しかし、
「トランプはたった一人で巨大な人身売買組織と立ち向かうヒーロー」という彼の支持者たちの主張は本当なのだろうか。
アメリカの人身売買の検挙数は、
「全米人身売買ホットライン」が作られた2015年から毎年増加し続けている。このホットライン制度を作ったのはオバマ政権であり、トランプ氏1人が行ったと断定するのは不自然だろう。
ネット上では
「子どもたちをトランプ大統領と米軍が救出した」という趣旨の動画が次々と公開されているが、映像は不明瞭で、いつどこで撮影されたものなのか判別できないものがほとんどだ。また、仮に政治家が関わる小児性愛グループがあったとして、その中に共和党の人間が参加せず、民主党の政治家しか関与していないということも考えにくい。
少女たちに売春をさせていたエプスタイン氏は民主党のビル・クリントン氏と親交があったが、トランプ氏とも交流があったことをトランプ氏自身が認めている。
よく考えれば「トランプは唯一無二の救世主」という主張は何の根拠もないことがわかるのだが、1人でインターネットの動画を深夜見ていて、周りのSNSに賛同者しかいなくなると、人は冷静さを失う。
最初にショックを与えて外部と遮断させ、その恐怖から逃れたいという状況につけ込んで説得するというのは、カルト宗教組織やテロ組織でも用いられる洗脳の常套手段だ。実は、
深夜1人でネットサーフィンをしていた私は、こうした洗脳を受けているのと同じ状態になっていたのだと思う。
今、世界中でコロナ禍によって生活苦が広がっている。現実社会に不満を持つ人たちはかつてなく多い。そのような人たちが、
ネットの中でスカッとする陰謀論――強力なリーダーが不愉快な者どもを一掃する――というストーリーにはまっていく危険性は、これまでよりもさらに高まっているのだろう。