さて、そんな想いを、確信を持って人を地方や田舎に誘ってきた。そして自分自身も東京都と千葉県匝瑳市の二地域居住を10年、完全移住してから3年目を超えた。田舎で米を自給し、野菜を育て、そんな暮らしが長くなった。
食べものたちを育てる暮らしをしていると、春から秋はそれなりにやることがいっぱいだ。種を蒔き、苗を植え、草と戯れ、収穫をいそしみ、実りを堪能する。その営みを経ると冬の足音が聞こえる。
やっと冬を迎えて、田舎暮らしのスローライフが始まる! なんてわけにはいかない。スローライフは忙しいのである。とはいえ、「やらされる」忙しさではない。「自発的」で「愉快」な忙しさだ。日がな一日を読書して過ごすなんて幻想は捨てよう。
冬を迎えて何が忙しいかって? それは DIY(Do It Yourself)だ。DIYと言っても、大工作業だけではない、土木作業や発酵食作りに始まり、さまざまなメンテナンスやリペアやリノベーションなど。お金を払って依託・購買・消費するのでなく、自分や自分たちで手・足・頭を使い尽くして作業し、創りあげる。
先日、我が家に居座った薪ストーブ。床も国産ヒノキに自ら張り直し、地元の方と一緒に作業して取りつける。左の廃材で作った棚には、発酵中の味噌や醤油のほか、自作の梅干しやビワ葉焼酎漬け(薬用)など
俺は、家でやりたいことに限りがない。金持ちならいざ知らず、お金がなくても妄想を実現するには自分の体を使うしかない。
集まった仲間たちと荒れた竹林を調える。切った竹もその場で活かし、ちょっとしたお飾りも作ってご近所にも潤いを
例えば、ウッドデッキの修復とペンキ塗り、雨漏り直し、畑のお洒落化、庭木の剪定。合板の床を国産天然木に張り替え、壁紙を漆喰に、屋外の薪保管場作り、雨水利用。小さな太陽光パネル自家発電の利便性向上、物置部屋の整理整頓棚配置……などなど。この冬だけではとうてい終わらない。
米を自給する田んぼ周りでは、仲間たちと建てた小屋・トイレ・風呂の周辺エリアのフォレストガーデン化(食べられるものが種々実る森作り)、オダ(稲を干す竹)の保管東屋づくり。
ワークショップを開催して、古民家のキッチンまわりをリノベ中。水道管も付け替えて、より使いやすくお洒落に!
農泊にしている古民家では、キッチンのリノベ、薪ストーブ設置、隙間埋め、雨水が土に染み込むようにする土木作業、庭の畑化、お隣さんとの境に目隠しになる植樹、敷地と道路の境のお洒落化、合板床を国産木材床に……などなど。
干し柿は、ヘタに数センチの枝が付いたままの柿で皮をむいて数秒だけ熱湯に晒し、枝に紐をくくって数週間ぶら下げるだけ
食べものの保存や発酵食にも忙しい。庭のシソの葉をニンニク醤油漬けに、シソの実は塩漬けに。盛りを過ぎて赤くならなかった青トマトをピクルスに。この時期たくさんいただくサツマイモは干し芋に。いただいてもいただいても、まだまだもらう柿は柿酢や干し柿に。
ユズもあちこちからいただいて、使い切れずに風呂に入れたり、ポン酢にしたり。年末に藁でしめ縄やリースを作る。年を越したら味噌作りや醤油作りが待っている。麹づくり、甘酒作り、納豆作り。やりたいことが目白押しだ。
解体する家屋の屋根瓦を外して保管。屋根に使うだけでなく、畑作りの囲いにしたり、土木作業でも土中で使える。瓦は自然物なので呼吸もするし、微生物も棲家にできるので利用価値が高い
貧乏なスローライフは忙しいのである。体と頭を動かして、夜は早くに目がしょぼしょぼになり、布団に入ればすぐ眠り落ちてぐっすり。とはいえ、やりたいことでワクワクして、あれもこれもと妄想で頭が冴えて早起きになる。寒さ増すこの時期の夜明け空は格別だ。出会わす陽の出の美しいことよ。