終わらない原発問題。元作業員の目を通して福島の今を描く『BOLT』 林海象監督インタビュー

Photo by JUMPEI TAINAKA

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 福島第一原子力発電所の事故をモチーフにした、永瀬正敏さん演ずる一人の男が主人公の三部作、林海象監督作品『BOLT』が全国で公開中です。    大地震の発生によって漏れ始めた冷却水を止めるために、上長(声・佐藤浩市)の命令に従って、圧力制御タンクの配管のボルトを締めに向かう6人の男たち(永瀬正敏、佐野史郎、金山一彦、後藤ひろひと、吉村界人、佐々木詩音)を描いた『BOLT』。  事故後、避難指定地区に住み続けた老人の遺品回収に向かった男たち(永瀬正敏、大西信満)の物語『LIFE』、そして、クリスマスの夜に忽然と現れた女性(月船さらら)との一夜を綴った『GOOD YEAR』。地震によって人生の変節を経験した男の3つの物語。  今回は新作映画の公開が7年振りになる林海象監督に、物語の着想や映画製作の経緯、そして同時に公開されているデビュー作のデジタルリマスター版『夢みるように眠りたい』などについてお話を聞きました。

周囲の助言で3部作に

――『BOLT』は3部構成になっています。 林:3部作にしたかったというよりはなってしまったんですね。というのも、当時映画学科の教授として赴任している東北芸術工科大学から「いいカメラを買ったので何か撮って欲しい」という要望があったんです。それで、せっかくだから一夜限りの大人のファンタジーを撮ろうと思って作ったのが『GOOD YEAR』でした。
GOOD YEAR

Photo by YUMIKO OKABE

 震災が起きた日は結婚記念日でお腹に子どもがいた妻は家にいたという設定です。津波が来てそのまま流されて妻は亡くなってしまいましたが、クリスマスの日に違う人になって一度だけ残された夫の元に会いに来たんですね。  『GOOD YEAR』を作ったのは2015年のことでしたが、その頃は3部作にしようとは思っていませんでした。『BOLT』は構想だけはありましたが、原子力発電所のセットを再現するのは大変なので、その時は映画を作るのは無理だと思っていたんです。この作品は海外のいろんな映画祭に出品して、スウェーデンのベステルオース映画祭では最優秀撮影賞ももらいました。 ――3部作になったのはどのような経緯があったのでしょうか。 林:『GOOD YEAR』を撮っている時に永瀬正敏さんから「もう一本撮ったら」とアドバイスがあったんです。永瀬さんとは私立探偵濱マイクシリーズ以降、いろんな現場をご一緒していつも「こんな映画、あんな映画を撮りたい」という話をしていますが、今回もその延長のような感じでした。  『GOOD YEAR』は車の修理工場で暮らす男の話ですが元は原発作業員という設定です。それならばその前に彼が経験した世界を描こうと。それで撮ったのが原子力発電所から20km圏内に暮らしていた元原発作業員の独居老人宅の遺品回収を描いた『LIFE』です。
Photo by YUMIKO OKABE

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 そして、その時にたまたま『BOLT』の構想を話していた現代美術家のヤノベケンジさんが高松市美術館の作品展で福島第一原子力発電所を模した巨大セットや防護服も作るので「撮りに来たら」と言ってくれたんです。それで『BOLT』の製作も動き出しました。 ――東日本大震災、特に福島の原子力発電所の事故に焦点を当てて個人の物語を描いていると受け取りました。 林:三部作の男は、一人の男にも見えるし、それぞれの物語の男にも見えるということを最初は想定していました。ところが、作ってみると、同じ一人の男に見えたんですね。作品の並びについては何回も並べ替えてみたのですが、不思議と撮った順番とは逆になりましたね。そうして三部作『BOLT』『LIFE』『GOOD YEAR』が出来上がりました。 ――来年の3月で東日本大震災から10年が経ちますね。 林:今のタイミングで公開するのは震災から10年を意識したのではなく、単純に時間が掛かったからなんです。市民有志のサポートによって始まって、クラウドファンディングもしたのですが、途中で資金が尽きてしまいました。そこから仕上げ作業を手掛けるレスパスビジョンの協力は借りましたが、自主映画になったこともあって、時間をかけて納得いく作品を作り上げたのが昨年でしたね。

ガイガーカウンターで感じた恐怖

――作品の随所でガイガーカウンターが鳴っていますね。 林:あのガイガーカウンターは僕の私物なんです。2014年から赴任している東北芸術工科大学のある山形に行く時に買ったのですが、その時の数値は震災前と比べて高いものの、アラートが動くことはありませんでした。ところが、原発から20km圏内に入って『LIFE』の屋外の風景を撮影した時に動き出したんです。
林海象監督

林海象監督

 その時にものすごい恐怖を感じました。全く動かないと思っていたのに、メーターをほとんど振り切る勢いでガイガーカウンターが反応して、真っ赤になって「危険」と表示が出た。『LIFE』の撮影では、南相馬市、双葉町、浪江町と行きましたが、ガイガーカウンターが鳴りっぱなしで車の中から怖くて出れませんでした。それぐらいに凄い量の放射能が出ていたんです。福島では今でもガイガーカウンターがあるので、劇中にも登場させました。 ――『BOLT』では、事故当時の原子力発電所内部の様子が描かれています。元作業員の方が内部の現状を撮影した写真展を見たことに物語の着想を得たとのことでした。 林:京都で写真展を見たのは原発から1年ぐらい経った時のことでした。宣伝もしておらず、ギャラリーの一角で2日ぐらいしかしていない小さなものでしたが、撮影された方がいたので話を聞きました。  そのことがきっかけで、事故当時の内部の様子を描きたいと思ったのですが、原発の内部構造を知るために物凄い量の資料を読みました。2014年ぐらいから脚本を書き始めましたが、市販の本やネット上の記事や原発関係者の人たち、運動家の人たちに聞いた話を参考にしました。
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