催涙スプレーを浴びながら撮影。香港民主化運動を捉えたドキュメンタリー『香港画』 監督インタビュー
『香港画』が明日から全国の劇場にて順次公開となります。
香港政府が「逃亡犯条例改正案」を発表したことをきっかけに昨年6月から起こった香港の民主化デモ。デモに参加している人々の多くは、小中学生も含む若者たちだった。何千人という人たちによって繰り返される非合法なデモ、街頭での破壊活動。そして、警官隊から浴びせられた催涙ガスやペッパースプレー、放水によって負傷した人々を救うボランティアの救護隊。彼らをこれほどまでに強く動かすものは何か――。
28分間に凝縮された衝撃と怒りのドキュメンタリー。
今回は、昨年11月から今年1月に掛けて香港に滞在し、デモ隊に密着し現地の様子を捉えた堀井監督に本作撮影の経緯やデモに参加した現地の若者たちの様子などについてお話を聞きました。
――ドキュメンタリー製作のきっかけについてお聞かせください。
堀井:香港へは昨年の10月に日本の会社のコマーシャルの撮影の仕事で行きました。もちろん、デモをやっていることは知っていましたが、驚いたのはデモに参加している人たちの若さでした。中学生はもちろん、小学生もいました。ものすごく若い子たちが暴力を行使するまでに追い詰められている。勇武派と言われる最前線の戦闘部隊には女性もたくさんいました。
そんなデモ隊を見た時に本当に衝撃を受けたんです。そこで、若者たちをそこまで突き動かすものは何かを撮って記録しようと決意しました。一度日本へ戻って準備をして、11月19日から香港へ入って撮影を開始しました。
――日本にいる自分とのギャップを感じたとのことでした。
堀井:日本では小中学生が社会運動に参加するということはないですよね。破壊活動に参加していた小学生は、年長者の仲間と一緒にいましたが、1人でその場に来ていたんです。親も学校の先生もデモに参加することを止めていません。
ボランティアの救援隊の多くは、看護学校に通って看護師を目指す学生たちですが、小学生もいます。劇中に登場する救援隊の小学生は両親が遠くから看護する様子を見守っていました。
――「暴力は良くないと思っているが暴力に訴えざるを得ない」と語った勇武派の中学生のジョー君が印象的でしたが、彼とはどのようにして出会ったのでしょうか。
堀井:ジョー君から信頼されていたデンマーク人の写真家の紹介で出会い、彼を介して撮影許可を撮りました。アジア人の顔をしていると中国人かもしれないと信用されないこともあるんです。デンマーク人写真家は白人ということもあり、ジョー君から信用されていたこともあってスムーズに撮影OKが出ました。
――小学生からデザイナーまで自分なりのやり方で参加しています。数千人のデモ隊が警察を煙に巻いていたということでしたが、運動はどのように組織されていたのでしょうか。
堀井:自分が滞在していた11月半ばから1月2日まではデモは2日に1回ぐらいの頻度で行われていましたが、政府に届けを出さないで行われる非合法なデモは司令塔になる人間が合図を出しているわけではありません。3000人程が参加している匿名性の高いSNSであるTelegramのスレッドに「今日はこんなことしよう」と合図を出すと、その中で多数決が取られるんです。
そして、行動が決定されると30分後にデモや破壊活動が行われます。すぐに警察がやって来て衝突になりますが、今度は何千台という携帯電話をBruetoothで繋げて、警察がいる場所をリアルタイムで地図にどんどん書き込んでいくんですね。何千人のデモ隊はそうやって捕まらないように行動していました。
自分もTelegramのスレッドに参加して、滞在先のホテルで常時動向を見ながら撮影する場所を決めていました。予定は未定でしたね。デモ隊は神出鬼没で、数千規模の人たちが一瞬のうちに現われて破壊活動をし、5分後にはいなくなっていました。彼らの合言葉は香港の英雄ブルース・リーの「Be water(水になれ)」でしたが、まさに各人が水のように形を変えて行動していました。
広東語が分からないので完全には理解できていませんが、暗号情報でやり取りしていたようです。グーグル翻訳で訳しても全く意味が分かりませんでした。
Telegramの中に警察官が混じっていて、集合場所に行ったらデモ隊が一網打尽に逮捕されてしまったということもありましたね。
昨年から今年に掛けて起こった香港の民主化デモを記録したドキュメンタリー、堀井威久麿監督作品
デモ隊の若さに衝撃を受けて
司令塔不在のデモ隊
この連載の前回記事
2020.12.23
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