催涙スプレーを浴びながら撮影。香港民主化運動を捉えたドキュメンタリー『香港画』 監督インタビュー

若者たちの不満の原因は

――「香港人はお金のために争っている冷たい人たちだと思っていたけど、この問題で一致団結した」というコメントもありました。 堀井:デモに参加している若者たちはいわゆる貧困層から大学に通う層まで幅広い層がいます。彼らが一致団結したのは自由が奪われるという危機感もありますが、経済的な問題もあるんです。
(C) Ikuma Horii

(C) Ikuma Horii

 中国の資本主義の拡大は香港にも影響を与え、チャイナマネーが香港に流れて来ていますが、香港の若者たちはその恩恵に与っていません。例えば、不動産価格はかつてに比べてかなり値上がりしています。築50年の50平米ほどの古いマンションが7~8000万円なので、香港の若者は家を買えません。  香港の大学にたくさん中国人が入ってきて入学が難しくなったことということもあります。そうした事情に今回の「自由が奪われる」という恐怖感が重なったんです。金のみならず、自由も中国も奪われてしまうのかと。そのダメージが一番大きいのは若者なんです。 ――日本のメディアは報道が少なかったように思います。 堀井:最前線で日本の大手メディアの記者やカメラマンは見たことがありません。危ないので会社から非合法デモには行かないように止められているとのことでした。フリーランスのライターやカメラマンをたまに見掛けたぐらいです。 ――他国のジャーナリストの人たちはどういう感じだったのでしょうか。 堀井:政府の許可を取って行われていた大規模なデモは日本のメディアも世界各国のメディアも来ていました。ところが、Telegramで示し合わせて行われるような非合法なデモを追っているのは、現地メディア、もしくはかなり熱心な海外のフィルムメーカーの人たちだけでしたね。彼らは予算をつぎ込んで防弾チョッキを着て撮影していました。  合法的なデモは届け出ているので、終わるまで逮捕される心配がありません。ただ、合法デモと非合法デモの境界線はないので、合法でも突然警察が撃ち切って非合法デモに突入して戦闘部隊だけが残り双方の衝突が始まるというパターンもありました。あの頃はいつ何が起きてもおかしくない状態でしたね。 ※後半は、香港国家安全維持法が施行された今年の7月1日以降の香港の様子や今後取り組みたいテーマなどについて堀井監督にお話を聞きます。 <取材・文/熊野雅恵>
くまのまさえ ライター、クリエイターズサポート行政書士法務事務所・代表行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、自主映画の宣伝や書籍の企画にも関わる。
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