先ほどの任命拒否に関する質問に続いて、この会見の最後の質問者として指名されたのは、ラジオフランス の西村カリン記者。新型コロナウイルスの感染拡大が続いているにもかかわらず、今も続いているGoToトラベルについて、自民党の二階幹事長と旅行業界の関係性を指摘しつつ、質問する。その質疑は以下の通り。
ラジオフランス 西村カリン記者:「フランスの公共ラジオ局のラジオフランスの特派員・西村と申します。GoToトラベルについての質問をします。GoToトラベルキャンペーンは、強く推進する
自民党の二階幹事長は、えー、全国旅行業協会の会長として務めていますが、結果的に他の業界・・、結果的に他の業界に比べて、自民党はこのトラベル業界を優遇するのではないかと思う国民はいると思われます。その点について、総理のご意見を聞かせてください。」
菅総理:
「
あのー、GoToトラベルでありますけども、そもそも日本には観光関連の方が約900万人おります。全国にホテルや旅館、さらにはホテルや旅館で働く従業員の方。そして、えー、お土産を製造する、あるいは販売をされる方。農林水産品を、おー、納入する方。そうした地域で活躍されている方が観光を支えているということも、観光に従事している方が地域をしっかりと支えて頂いているということも、これ事実だという風に思ってます。(
黄信号)
まあ、そういう中でこのGoToトラベルを政府としては、あー、この、あの、実行に移してきているところであります。そういう中で地域の中でそうした生活をしている人がですね、えー、このGoToトラベルによって、当時は、5月6月は稼働率が1割とか2割だったんです。そうした人たちは、もうこのままいったら、あー、まさにこの事業を継続することができないというような条件の中で、状況の中で、私どもはこのGoToトラベルをさせて頂いて、えー、今に至っていることであります。(
黄信号)
二階、いー、幹事長が、と、特別ということではなくて、何がこの地域の経済を支えるのに一番ですね、役立つのかなという中で判断をさせて頂いたと、頂いているということであります。 (
青信号) 」
まず、1段落目、2段落目はこれまでの答弁でも繰り返されてきた周知の事実を述べているだけのため、黄信号とした。関連する業界や団体の構成、問題となっている事柄の経緯を長く答えるのが、先ほどの1問目とそっくりだ。
1段落目:観光業従事者の構成
2段落目:GoToトラベルを始めた経緯
そして、3段落目でようやく二階幹事長と旅行業界の関係性に関する内容に踏み込んだため、青信号としたが、その内容はゼロ回答に等しい。「何が地域経済を支えるのに役立つのか判断した上で旅行業界を支援した」というニュアンスの回答に聞こえるが、他にも様々な業界がある中で、なぜ旅行業界なのかの説明は一切無かった。本来であれば、この点を追及する質問を重ねるべきだが、菅総理の回答後にすぐさま司会者は以下のように発言し、会見は終了された。
司会者(山田真貴子 内閣広報官):「えー、それでは、あのー、次の日程ございます。大変申し訳ございません。会見を終了させて頂きます。あのー、現在挙手をされている方で、あの、ご希望がありましたら、あのー、各1問を、あの、メールなどでお送り頂ければ、後ほど総理のお答えを書面で、えー、返させて頂きますので、ご理解頂くようにお願いします。えー、それでは、以上をもちまして、えー、本日の総理記者会見を結ばせて頂きます。皆様のご協力に感謝申し上げます。ありがとうございました。」
わずかに見どころはあったが、「出来合い」会見は変わらず
こうして約2ヶ月ぶりに行われた菅総理の就任以来2回目の記者会見は終了した。終盤にわずかながら見所はあったものの、幹事社からの質問は事前に提出されており、菅総理は用意された原稿を読みながら答えるという「朗読会」と言って差し支えない状況が大半を占めていた。
菅総理の記者会見の異様な少なさ、質問を事前に集めて回答も事前に用意するという閉鎖性の理由を紐解いていくと、やはり8年近く務めた官房長官時代にあると思われる。菅総理は官房長官時代、事前に提出された質問に対して用意された回答を棒読みするだけの記者会見を平日にほぼ1日2回のペースで8年近くも続けてきた。試しに筆者が2年前のある日の官房長官会見に参加した5人の記者の質問と菅官房長官(当時)の回答を全て書き起こして、信号無視話法分析してみたところ、実に5人中3人は質問に対する回答をほとんどもらえていなかった。その様子は下記の動画で確認できる。
*動画へのリンクが表示されない配信先で本記事を読んでいる場合、筆者のYouTubeチャンネル「赤黄青で国会ウォッチ」で公開している動画「【信号無視話法分析】菅義偉官房長官 vs 5人の記者 2019年2月8日午前 記者会見」をご覧ください。
事前に用意された原稿を読むだけなので、質問の方向性が少しでも想定と異なると回答は食い違い、しかも記者は質問と回答のズレを追及せず、ただタイピング音が鳴り響く異様な光景がこの動画で確認できる。こうした会見を長年続けてきたこともあり、菅総理はもはや自分の頭で考えて自分の言葉で質問に即答すること自体が難しいのではないかと思われる。
<文・図版作成/犬飼淳>