ニューヨーク・タイムズの香港拠点が、東京ではなくソウルへ移転した「本当の理由」

海外メディアはソウルの「報道の独立性」について報道

 海外メディアは、英BBCが「報道機関を動揺させ、ジャーナリズムのハブとしての香港の将来を不確実なものにした」「香港で中国が施行した、広範囲にわたる新たな治安維持法は、私たちの事業とジャーナリズムにその新規則がどう影響するのかをめぐって、多大な不安を生んだ」と指摘した。  BBCの日本語版サイトによると、NYTの広報責任者のアリ・アイザックマン・ビヴァクワ氏の「私たちはビジネスと印刷のハブ機能を香港に置き続ける予定だ。一方で、徐々にデジタル編集のハブをソウルに移し、動きやすさを確保すると同時に、地域の資源(情報)に簡単にアクセスできるようにしていく」とのコメントを伝えた。ソウルでは情報に自由にアクセスできる環境があるという見解だ。  米CNNも「中国による香港の統制が強化されたことを受け、地域の拠点をほかにも設ける必要があるとの判断に至った」というNYT幹部の見解を伝えている。  日本でNYTが「報道の独立性」でソウルが選ばれたことが報道されなかったのは、『共同通信』と『時事通信』がともにその点を報じなかったことの影響も大きい。米国など海外メディアが「日本には報道の自由が存在しない」と見ていることを、日本の政府・民衆が知らないことは危険だ。

「日本には高水準の『報道の自由』がある」という錯覚

外国人記者イメージ 多くの日本人は「日本では民主主義が機能している、報道の自由もある」と思い込んでいる。日本語だけで情報が流れ、完結しているので、外国から見たらどう見えるかを考えない。かつては、NYTや『ワシントン・ポスト』の日本論評が紹介されたが、最近はそれも激減している。  NYTには東京支局(朝日新聞東京本社ビル内)があり、東京特派員は韓国・朝鮮(DPRJ)、台湾もカバーしてきた。NYTがアジアの編集拠点を香港からソウルに移すことは、NYT東京支局がソウル・オフィス(実質的にはアジア太平洋支社)の傘下に入るということになる。東北アジアの政治・経済・文化の勢力関係が大きく動いている。    NYTのノリミツ・オオニシ東京支局長(日系カナダ人)は2005年9月7日、「なぜ日本は一党に統治されることに満足なのか」と題する記事でこう書いたことがある。 「日本の民主主義体制は東アジアにおいて最古だが、政権党は中国、北朝鮮の共産党とほとんど同じくらい長期間権力を掌握している。南朝鮮や台湾の民主主義体制の歴史は日本より短いが、すでに政権政党の交代を何度か経験しており、生気にあふれる市民社会から強固で独立した報道機関まで民主主義を支持している点で、日本よりも輝いているように見える」  オオニシ記者の認識は、今でも東京にいる外国人記者に共通しているのではないか。しかし不幸なことに、日本の政財界のエリート、記者クラブメディアの幹部と記者は、「日本は民主主義国で、高水準の『報道の自由』がある」と錯覚している。「国境なき記者団」が「報道の自由度」ランキングで日本を66位にしていることも、あれこれ理由をつけて素直には認めようとしない。
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記者クラブという「既得権益」
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