「みんなで書かない」という、記者クラブメディアの悪弊
“世界で最も信頼される新聞”とも言われるNYTが、
「韓国には権力から独立した報道機関があるが、日本にはない」と判断したことは、日本の政府とメディア界にとって衝撃的なできごとだったはずだ。しかし、
日本メディアはソウルが選ばれた理由を報道しなかったため、多くの日本の人々はこのことを知らない。
それでは、NYTが東京でなくソウルを選んだことを日本メディアがどう報じたかを見てみよう。
『朝日新聞』は7月16日、「香港のNYT配信拠点、ソウル移転へ」という見出し記事(ニューヨーク、藤原学思記者)で、「ソウルが選ばれたのは、外国企業に好意的な環境や独立した報道機関の存在などが影響した」と報じた。藤原記者が短い記事の中で「独立した報道機関の存在」に触れたことを評価したい。
『朝日新聞』を除く日本の新聞・テレビは、NYTがソウルを選定した3つの理由のうちの1番目と3番目を紹介して、2番目の「報道の独立性」について触れていなかった。
記者クラブメディアの、「ブラックアウト」(black out、停電、報道管制)と呼ばれる「みんなで書かない」悪弊だ。
ほとんどの日本の新聞・テレビは、「報道の独立性」について触れず
『日本経済新聞』は「米NYタイムズ、香港から一部移転 国安法を懸念」との見出しを立てて、「ソウルを選んだ理由として、外国企業が活動しやすく、アジア地域の主要な報道拠点になっている点などをあげた。バンコク、シンガポール、東京も候補だったと明かした」と書いた。
NHKは7月15日、「ニューヨーク・タイムズ 編集拠点を香港からソウルに移転へ」の見出しで、
「移転先としては東京、バンコク、シンガポールも候補にあがっていたということですが、ニューヨーク・タイムズは最終的にソウルを選んだことについて『外国企業に友好的であることや、アジアの主要なニュースにおいても中心的な役割を果たしているためだ』と説明しています」と伝えた。「報道の自由」でソウルが勝ったことが省かれている。
海外ニュースで日本の新聞・テレビに大きな影響力を持つ『共同通信』は、7月14日午前11過ぎに配信した
「NYタイムズ拠点ソウルへ 香港から、国安法を懸念」という見出しのNY支局発の見出し記事(渡辺陽介支局長)で、
「同紙によると、東京、バンコク、シンガポールも候補だったが、韓国が外資企業に友好的で、ニュース面でも中心的な役割を果たしていることなどからソウルが選ばれた」と伝えた。
また『共同通信』は同日午後8時半過ぎ、ソウルが選ばれたことについて同じ理由を報じ、
「中国外務省の華春瑩(か・しゅんえい)報道局長は15日の記者会見で、同紙の発表に関連し『法律を守り規則に従って報道しさえすれば、何も心配に感じることはないと思う』と述べた」と書いた。
『共同通信』も「報道の自由」でのソウルの優位性は報道しなかったのだ。
また、
『時事通信』は香港発のAFP時事電として、「NYタイムズ、香港からソウルへ」との見出しで、「タイムズ紙は数十年にわたり香港をアジア報道の拠点と位置づけ、最近では24時間態勢のデジタル・ニュースの編集にも力を入れていた」と報じた。
日本テレビ系(NNN)も16日午後、「NYタイムズ香港拠点を韓国ソウルに移転へ」とのタイトルで、「移転先には東京も候補にあがっていたということですが、外国企業に友好的でアジアの主要なニュースで中心的な役割を果たしているソウルに決めたとしています」と報じた。
『東洋経済オンライン』は7月17日、「NYタイムズが「デジタル拠点」を韓国に移す訳 アジアにおける重要拠点に東京は選ばれず」というタイトルで、東京が選ばれなかったことを詳しく書いた。
しかしその内容は
「移転先としては東京、バンコク、シンガポールも候補にあがっていたということですが、ニューヨーク・タイムズは最終的にソウルを選んだことについて『外国企業に友好的であることや、アジアの主要なニュースにおいても中心的な役割を果たしているためだ』と説明しています」と伝えたNHKと、同じような報道になっている。