島根県の事例からも数字で明らかになる「検査をすると患者が増える」説のデタラメさ

PCR検査イメージ

PCR検査イメージ (shutterstock)

本邦独自、「検査をすると患者が増える」エセ医療デマゴギーに欺されなかった島根県

 前回、長野県の新聞トップシェアの県紙である信濃毎日新聞7/21朝刊1面トップを飾った「新型コロナ 妊婦にPCR検査実施へ 県、希望者に無料で」という記事と付属するネット未転載の囲み記事が、ジャパンオリジナルエセ医療・エセ科学デマゴギーに深刻に汚染されているという事を実際にその記事の数値的検証を行うことによって解明しました。  予定では今回は、本シリーズ17回の続きに戻すはずですが、文春オンラインで、興味深い記事が公開されました。 ●たった1人の感染者が地方都市にコロナを持ち込むとどうなるか?《島根で実際に起きた“舞台クラスター”波及騒動》2020/07/23安藤 華奈 文春オンライン  筆者は把握していなかったのですが、東京で舞台観劇をした大学生の女性が、感染者接触追跡調査の結果PCR検査を受診することとなり、SARS-CoV-2に感染していたという事が判明したとの記事で、ご本人は無症状だったとのことですが、指定医療機関へ入院、接触可能性のある人のPCR検査を行ったというものです。幸い、この大学生は無症状が続き、発病することなく退院の見込みとのことです。  当たり前ですが、この大学生が観劇旅行に出かけた時には、本邦では公的な介入、社会的行動制限は実施されておらず、むしろGo Toキャンペーンの前倒しが決まるなど、国を挙げて社会活動・経済活動の再開をしていたのですから、この大学生が東京へ観劇に行ったことは何も後ろめたいことはありません。そもそも東京とのバス、鉄道、航空機路線は運行しているのですから。  島根県は1000人規模の大規模迅速検査を計画し、直ちに実施されましたが、東洋経済オンラインで公開されている統計資料からは2020/07/22現在で関連する期間の総検査人数は、734名、陽性者は当該大学生1名、733名が陰性というものでした。  さて、この大学生がPCR検査で陽性判定が出たのは7/14です。7/22までに接触可能性のある733名をPCR検査したのですから、巷で医療関係者や一部の医師会が流している「検査をすると患者が増える」という説に従えば、島根県ではたいへんな数の陽性者、その殆どは偽陽性者が出現していることになります。どうして0人なのでしょうか?  そこで早速、医療関係者や一部の医師会が流している「検査をすると患者が増える」という説の根拠となっているベイズ推定で検証しましょう。

島根県、陽性者発生と大規模検査をベイズ推定で検証!

 島根県で7/14以降に発生した検査陽性者と検査数は、7/22迄に総検査人数734名(1名+733名)、うち陽性者1名です(参照:東洋経済オンラインより2020/07/23閲覧)  まず全ての基準となる実績値を表に示します。
島根県の陽性者発見事例2020/07/22現在

島根県の陽性者発見事例2020/07/22現在

 以下のベイズ推定は東京大学・保健センターの説明に従って行いました。試算は、金井誠博士による説の推定変数、室月淳博士による仮説に加え、神戸大学の岩田健太郎博士がよく言及される仮説による変数を使います。加えて本邦、世界のPCR検査実績から算出される保守的な変数を使います。 1)信州大学医学部教授金井誠博士による説*に推定される変数 〈*信濃毎日新聞2020/07/21朝刊1面〉 感度90%、特異度85%(推定は、前回記事による) 母集団734人(実績値)、罹患率1.4‰(実績値)
島根県の陽性者発見事例を金井説で再現

島根県の陽性者発見事例を金井説で再現

 結果はたいへんなもので、もし金井教授の説を採用すると、島根県では734人のうち110人が偽陽性となってしまいます。陽性者は1名ですから陽性的中率は0.9%であり、検査の意味がありません。罹患していない陰性判定者(真の陰性者)が623名となりました。  これは罹患率が実績で1.4‰と低いためベイズ推定に特異度85%などという変数を入れるとアッパラパーな結果を出すためです。一般的なガン検診などの相対値を用いる医学検査ではこのような事も起こりえるのでしょうが、PCR検査では本来あり得ないものです。 2)室月淳博士による説* 〈*室月博士のTwitterより/魚拓〉  次は、平素から市民への医療啓蒙活動を熱心に行っており、本も上梓されている室月淳博士による仮説です。 感度90%、特異度90% 母集団734人(実績値)、罹患率1.4‰(実績値)
島根県の陽性者発見事例を室月仮説で再現

島根県の陽性者発見事例を室月仮説で再現

 室月仮説の結果もたいへんなもので、島根県では734人のうち73人が偽陽性となります。陽性者は1名ですから陽性的中率は1.4%であり、検査の意味がありません。陰性判定者(真の陰性者)は660名となります。  この計算結果も根本的に誤った定数を使ったためによるのですが、特異度が僅か5%増加するだけで偽陽性者は734人中37名と全体の5%減少しています。勿論当たり前です。 3)神戸大学医学研究科教授岩田健太郎博士による仮説*による変数 〈*岩田健太郎博士のTwitterより/魚拓〉  次は、平素から市民への医療啓蒙活動をネットで、TV・雑誌等メディアで熱心に行っており、本も多数上梓されている岩田健太郎博士による仮説です。 感度70%、特異度99% 母集団734人(実績値)、罹患率1.4‰(実績値)
島根県の陽性発見事例を岩田仮説で再現

島根県の陽性発見事例を岩田仮説で再現

 岩田仮説の結果では多少改善されます。島根県では734人のうち7人が偽陽性となります。陽性者は1名ですから陽性的中率は12.5%であり、やはり検査として用いることには疑問があります。罹患していない陰性判定者(真の陰性者)が726名となりました。 4)現実のPCR検査実績*からベイズ推定を行う 〈本連載、前々々回前々回前回記事による〉  それでは最後に世界と日本で行われているPCR検査の実績値を統計や文献値から保守的に感度、特異度を定めてベイズ推定を行った結果を示します。島根の大規模検査は、独立して行われたものですから検算に使えるのです。なお本来は、有効数字の扱いから特異度は99.99%でなく100%とすべきです。 感度92%、特異度99.99% 母集団734人(実績値)、罹患率1.4‰(実績値)
島根県の陽性発見事例を現実から保守的に導いた特異度・感度で再現

島根県の陽性発見事例を現実から保守的に導いた特異度・感度で再現

 当たり前なのですが、感度92%、特異度99.99%では、完全に実績と一致しています。陽性的中率100%です。  以上から、巷で一部の医療関係者が流布しているPCR検査の異様に低い特異度は、99%,90%,85%全てでその正当性が全面否定されました。感度については、陽性の取りこぼし、偽陰性に影響しますが、今回の罹患率と母集団では感度70%程度では影響しません。これも当たり前です。また、仮に感度70%を適用しても二種二検体検査によって感度90%以上になりますし感度を上げる方法は、運用次第で幾らでもあり、実際そう運用されています。
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科学的正当性が全くない3つの説
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