島根県の事例からも数字で明らかになる「検査をすると患者が増える」説のデタラメさ

科学的正当性が全くない3つの説

 島根県での1000人規模の罹患率が低い集団についてベイズ推定を3名の医師による説および仮説で行い、更に前回までに日本の実績値と世界の実績値から保守的に算出したPCR検査の各種変数を用いたベイズ推定を行いました。  結果は、三人の医師、医学研究者による説および仮説は現実と著しく乖離したデタラメであり、筆者が過去3回の連載で算出したものはバッチリ島根県の事例と一致しました。  このように各種変数の妥当性を評価するために実例をもとに評価することは科学的手法の基本中の基本です。残念ながら”東方三医学博士”による変数はその手順すら経ていません。要するに科学的手順を踏んでいないとしか思えないのです。ですからデタラメなものになることは当たり前なのです。  何故このような反科学の典型的な行動を三人のそれなりに著名な医学博士が行ってきたのかは筆者には全く理解できません。  では彼らの出した変数は一体何だったのでしょうか。「仮に」であっても余りに程度が低すぎます。何しろどう計算してもあらゆる現実と著しく乖離していまいます。  実は3人の医学博士が使った変数は、医師国家試験の想定問題集や教科書など、テキスト類に掲載されている例題に使われている類いなのです*。それらは、検査が偽陰性をだす、偽陽性をだすという事を顕著に示すために作られたものです。例えば東京大学・保険センターの事例魚拓)もそうです。  要するに、悪い値を出すように設定された試験問題用の変数をそのまま「仮に」と持ってきて、「検査をすると患者が増える」論の論拠としてきたのです。これらは全く科学的手続きを踏んでいません。典型的なエセ科学です。「仮に」だからと許されることではありません。今ではトランプ大統領が本邦の国策翼賛エセ医療・エセ科学デマゴギーに飛びついてしまい、合衆国の人々を困らせています*。全世界の迷惑です。 〈*CORONAVIRUS IN CALIFORNIA No, President Trump, Testing Isn’t Causing California’s Case Counts to Rise/6/20タルサでの集会以後、トランプ大統領は、「検査をするから感染者が増える。」に加え、時々「実際に検査をしないことで感染者を減らしている国がある。」と発言している。該当する国は世界で本邦だけである。実際、BBCでもこの頃になると検査をしないで成功した国として保守党議員などによって本邦が挙げられ始め、BBCのニュース・アンカーを困らせていた。今では、パンデミックへの対応に大失敗した国として本邦は報じられ始めている〉  このようなエセ科学・エセ医療デマゴギーが本邦の医学・医療界を半年の間席巻し、膨大な国策医療ネグレクトを弁護することに使われてきました。そして、世界でも有数のコロナ大失敗国に本邦を転落させつつあります。これが現実です。  ”東方三医学博士”には、猛省をしていただきたいものですし、このようなエセ医療・エセ科学デマゴギーに同調し加担した人々や組織、メディアにも猛省を求めます。
日本でのSARS-CoV-2感染者数累計の推移(線形)

日本でのSARS-CoV-2感染者数累計の推移(線形)
5月下旬から綺麗な指数関数的増加を描いている
Our World in DATAより

ニュージーランドでのSARS-CoV-2感染者数累計の推移(線形)

ニュージーランドでのSARS-CoV-2感染者数累計の推移(線形)
NZでは制圧完了とされているが、経済活動、国境再開に伴って豪州や英国など海外からの持ち込みがあり、感染者数が微増しているため厳しい検査・防疫体制をとっている。
Our World in DATAより

 さて、次回からは三度目の正直で前々回の続きに戻る予定です。 ◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ19 <文/牧田寛>
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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