急伸する吉村大阪府知事と維新の人気。ほんまにそれでいいのか? 吉村・松井の大阪府市政を「再」検証する

吉富氏と松本氏

大阪ロフトプラスワンWESTで無観客生配信で行われた緊急対談。吉富有治氏(左)、松本創氏(右)ともに、大阪を愛し、今の大阪を憂えるジャーナリストだ

 新型コロナウイルス感染症のパンデミック対応で一躍全国区へ躍り出た吉村洋文大阪府知事と「大阪維新の会」の代表・松井一郎大阪市長。  その政治手腕はメディアが報じるように地方自治体として抜きん出たものなのか、それとも「都構想の住民投票」を睨んだ人気取りの「やっている感」なのか? 関西メディアの伝え方にバイアスはないのか? そしてますますメディア露出を増やす維新の「社長」こと橋下徹氏の今後の動きを含め、地元大阪で維新政治を冷静にみつめてきた二人のライター(吉富有治/松本創)が、維新の今を「再」検証する。(本記事は2020.05.08に大阪ロフトプラスワンWESTより緊急生配信されたイベントをもとに再構成されています)

大阪の新型コロナ対応と検証しないメディア

松本:5月8日現在、新型コロナウイルス感染症が拡がる中、吉村知事と維新の会の人気が「爆上がり」しています。都道府県知事の中では図抜けた存在感を見せ、「国に先んじて思い切った対策を打ち出している」「発信力があってわかりやすい」とマスメディアやネットでも高評価。「吉村知事を厚生労働大臣に」という声まで上がるような状況です。  これに伴って国政での維新人気も上がり、先日(5月6日実施)の毎日新聞の緊急世論調査では自民党の支持率が30%(前回34%)と下がったのに対して、「日本維新の会」は11%(前回5%)と2倍以上に伸ばし、野党のトップに立ちました。 吉富:今回の維新人気が今までと決定的に違うのは全国区になっていることですね。 松本:他の野党はほぼ変わらず、維新だけが大躍進している。橋下時代から国政批判の受け皿的な存在でしたが、今回は安倍政権のコロナ対応への不満から、「次」の選択肢として急浮上してきたように見えます。  しかし、ちょっと待って。ほんまにそれでええの? もう少し冷静に、長い目で検証した方がいいんじゃないの? というのが本日のテーマです。 吉富:コロナ問題で維新の世間的な評価がすごく上がっていると同時に、メディアの持ち上げ方が異様なんです。「吉村知事を厚生労働大臣に」ばかりか、「橋下さんを次期総理に」なんていう記事が出てきたり、スポーツ新聞が彼らのツイッターをそのまま掲載したりする。ここまでの状態はかつてなかった。 松本:そこに苦言を呈し、非常時に「英雄」を求める風潮に警鐘を鳴らした吉富さんのHBOの記事も反響大きかったようですが、まずは大阪のコロナ対応への評価からお願いします。 吉富HBOでも書いたけど、私は吉村知事の対応を決して非難はしてないし、むしろ基本的にはよくやっていると思う。ただメディアの持ち上げ方がおかしい。政治家(知事)なんだからやって当たり前、やらないほうがおかしいんですよ。持ち上げることそのものがおかしいと思っている。  吉村知事の人気が全国的になってきたのは、毎日のようにテレビに出たり、打ち出し方がうまいんだと思います。ただ冷静に見ると、吉村知事の勇み足のような部分も見られます。3月19日の三連休前に大阪と兵庫の往来自粛を訴えたことがあった。あれは兵庫県知事との事前打ち合わせもなしにいきなり言ったんです。感染抑制のための外出自粛はわかるけど、兵庫側も混乱したし、そもそも兵庫以外との往来はいいのか? 京都、奈良、和歌山だったらいいの? となりますよね。  大阪府が府下の市町村と共同で休業補償するとの発表も唐突で、府下の市町村のトップは知らなかった。原資は(国からの交付金もあるが)折半ということなんだけど、財政的に半分も出せない市町村もあるんだから、本来なら府が出すべきですよ。そういうことを事前調整なしにやってしまう。  政策の打ち出しだけは矢継ぎ早で、対応の速さだけが目につくけど、現場の混乱たるや酷いもので、そういうことこそメディアがどうなんだって切り込むべきですよね。検証しないのはおかしいと思います。 松本:大阪・兵庫間の往来自粛は、松井市長と二人だけで決めたようですね。府庁の幹部も知らなかった話を、いきなりテレビでしゃべるというトップダウンでした。国の専門家会議の一意見を「誤読した」との批判もありましたが、あれはどうやら「意図的に読み替えた」んですね。そもそも彼らは直前まで「花見は気をつけてやってほしい」(参照;大阪市市長記者会見全文“)と言っていたぐらい、経済活動の制限を最小限にとどめたい考えでした。大阪府内も含む全域での外出自粛だと、経済的な影響が大き過ぎる。だから維新に批判的な知事のいる兵庫との往来に限り、連休の3日間だけ自粛を呼びかける「政治判断」をした、という話のようです。 吉富大阪府と大阪市だけは常に連絡を取り合っているけど、その他の府下の市町村や他府県とは取れていない。普段から連携がないから、唐突に重要な決定を打ち出し、混乱を広げるということがたびたび起きる。 松本:休業補償も、府下最大の大阪市の長が松井さんだったから早く合意ができ、押し切れた。 吉富:ただ、松井市長も吉村知事の行き過ぎにはブレーキをかけていると聞いていますよ。

トップの強いメッセージを事後に検証するのがメディアの仕事

松本:府庁内では各部署の幹部に対して、「とにかく強い対策を示せ」「府民にわかりやすいことをやれ」と指示されているようです。それが実際に有効なのか、科学的に理があるのかよりも、発信やアピールに重きを置いている印象がある。いわゆる「やってる感」の演出ですよね。ただし、非常時にトップが強いメッセージを出すことは必要な面もあり、それ自体をすぐには批判しにくい。しかし、実際どうだったのか、事後にきちんと検証する責任がマスメディアにはあると思います。 吉富:吉村知事も松井市長も当然ながら人命を軽く見たり、大阪の経済をダメにしてやろうと思っているわけではなく、なんとか感染を抑えたい、早く経済活動を再開したいと思っているのは間違いない。しかし、それはどこの自治体のトップも一緒です。人によっては力強い言葉も、他の人からしたら独断専行だって思うかもしれない。そのやり方が行き過ぎているかどうかは検証が必要で、やっぱりメディアの仕事なんですよ。 松本:先日、自粛解除の「大阪モデル」と称する出口戦略を吉村知事は示しました(参照:大阪府)。「感染経路不明者10名未満」など3つの条件があるんですけど、これは達成可能な数値を並べたとも見られている。府の専門家会議座長の朝野和典・大阪大教授が「経済と医療の兼ね合いで作ったもので、サイエンスとしてのエビデンスがあるわけではない」(参照:東京新聞)と言っています。つまりは早く経済活動を再開させるための基準ということですよね。 吉富:なんで早く経済活動を再開させたいかというと、コロナで助かっても経済で死んでは意味がないから。これは東京や愛知などの他府県や国でも一緒。経済と健康のバランスを取るのは政治の役目です。ただ大阪の場合は特殊な事情がある。大阪の経済活動再開というのは「大阪都構想」の住民投票を予定通り11月にやるためなんです。都構想を早くやりたいために、自粛解除を急いだという背景がある。
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10年間で医療現場を疲弊させ、非常事態を引き起こした大阪維新の「改革」
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