松本:4月19日に
大阪維新の会が結党10年を迎えました。この間、維新の「改革」というのは、都市政策とか、公共部門や自治の強化という視点ではなく、極めて企業経営的な思想で行われてきた気がします。
「無駄の排除」という名目で事業を切り捨て、組織を統廃合し、人員削減や職員の非正規化を図り、資産を売却し、民営化や民間委託を進めるといった経営視点のコストカットに偏って行われてきた。
公立病院の統廃合もその一つで、
徹底したリストラが現場の余裕を奪い、疲弊させてきた結果、医療現場の非常事態を引き起こしたという指摘が根強くあります。
なにしろ、あの橋下さんがツイッターで「
僕の徹底した改革が現場を疲弊させた」と反省していたぐらいです。この人も反省することあるんやって驚きましたが(苦笑)
で、その
リストラ志向の象徴が都構想です。「二重行政の無駄」をなくし、司令塔を一本化してトップダウンを強め、大阪府が大阪市の財源を取り込む。それで何をするのかというと、
湾岸開発などの大規模投資をしたい。そして、大阪は成長してます、東京に負けじと発展してるよとイメージを作る。一方で、
保健医療や福祉や文化など、生活者に近い部分は単なるコストと見て、自己責任・自助努力でやれと切り捨てていく。
吉富:公務員や経費の削減は維新以前からやってきたけど、維新はさらに過激にそれをやった。それは橋下時代の府・市政ではある程度仕方なかった部分もあると思う。彼らが言うように、10年前の大阪市は労組が幅を利かせるなど酷かったのも事実で、それを改める必要があったということについては、その通りだと思います。
公務員や経費の削減といったリストラは痛快に見える一方で強烈な副作用を持っていて、それが
今になって押し寄せてきている感じだと思う。
ある程度の時期にきたら
「コストカット」から「カネを使う」に移行しないといけない。そうでないと、副作用が起こる。例えば公務員改革によって日本一安い給料になった結果、人材が集まらなくなっている。優秀な学生は神戸市や京都市に行くという大学の先生の話も聞いている。維新はケチケチ作戦でお金は貯めてきた。今度はこれを使うべき。
橋下さんでさえ「使え」と言っている。「焼野原になってもいい、もう一度やり直せばいい。今こそ使え、国も地方も」(参照:
スポーツ報知)と。
繰り返しますけど、維新のコストカットはある時までは意味があった。しかし、今は維新も軌道修正するべきです。
松本:何をどう削るかというコストカットのやり方が軋轢を生んできた面もありますよね。
彼らのやりたかったのは企業型の大規模開発投資で、
暮らしに直結する基礎自治の重要な部分は削ったり、民間に委託したり。
吉富:そういう意味では結局、「
箱物行政」なんですよね。
松本:維新は「
利権の付け替え」をしているだけだとよく言われますが、その通りだと思う。ただ、時代の風潮もあったと思いますが、マスメディアや府民・市民もそれを支持してきた。大阪の経済成長のために、医療・福祉・文化を削る、公務員や議員は減らす、「身を切る改革」だ、それでいいんだということで、維新は選挙で勝ってきたわけですよね。「改革」を無条件に良きものと持てはやしてきた。そこは反省として踏まえた上で、では、これからやろうとしている都構想をどう思われますか?
吉富:やるべきじゃないと思っています。二つ理由があります、一つは
コロナ問題で手一杯の時に、都構想にマンパワーを使うべきでない。
都構想にお金を使うよりも、コロナ後に起こるであろう大不況を想定して、困っている個人、小売業、事業者などを救うプランを立てるべきだと思う。もちろん政府はやっているけど、それで十分とは思えない。政府が出来ないなら大阪府と大阪市がやればいい、やれるだけのお金は貯めてきたはずです。
皮肉なことに、維新のケチケチ作戦のおかげでお金は持っている。ないなら借金すればいい。都構想に700~1,000億いるわけです。そこに使っている場合じゃない。
もう一つは
「特別区設置協定書」の内容。これが住民投票にかけられるわけですが、そこでは
コロナが起こる前の財政シミュレーションが設定されている。つまりコロナ抜きの経済成長が前提になっています。でもコロナ後はお金が出ていくばかりで財政収支が狂う。もし住民投票するのなら、コロナ後の財政シミュレーションを想定して作り直さないといけない。最低限、それをしないで住民投票をやっちゃいけない。ただコロナ後をシミュレーションしてしまうと、財政はガタガタになる。
松本:今でもだいぶん過大に見積もったシミュレーションですもんね。
吉富:そういう分析もあるんだし、コロナ後はもっとそうはいかない。この二つの理由で都構想はやってはいけないと思っています。
松本:維新のキャッチフレーズに「大阪の成長を止めるな」というのがありますが、では実際に大阪の経済が成長しているかといえば、どうもそうではない。
実態はインバウンド依存、ホテルの異常な建設ラッシュに代表される「
インバウンド一歩足打法」です。これが今、コロナで大打撃を受けている。そういう経済構造から、もっと
生活に根差した、地域経済の足腰を強くする構造へ、たとえば
製造業を育て、中小企業を支援するといった方向へシフトする発想が必要だと思うんですが。
吉富:維新にはそういう発想はないんじゃない。
カジノとか娯楽的なことばっかりで大阪を盛り上げていくことをやってきたんだよね。これから伸びていくような先端企業を育ていくとかいう発想はほとんどない。平松(元市長)さんにはあったけどね。
松本:橋下さんはよく、「
ヒト・モノ・カネを呼び込む」と言ってましたが、これって
企業経営者やコンサルの受け売りですよね。
吉富:インバウンドって、結局バブルでしょう。このままだと大阪にとっては、1980~90年代初めの土地バブルに続いて2回目のバブル崩壊を経験することになるよね。