住民は「死ぬかも……」。福知山市で悪臭・騒音が問題のパーム油発電所、舞鶴市には国内最大規模で建設!?

パーム油発電が引き起こす、生産地の環境・社会破壊と公害

パーム油学習会

舞鶴市では過去何度とパーム油に関する学習会が開催されていて、常に多くの市民が集まる

 4月23日。市民団体「舞鶴西地区の環境を考える会」(京都府舞鶴市。以下、考える会)に届いた知らせに森本隆代表は驚き、喜んだ。「考える会」が強固にその建設に反対してきた「舞鶴パーム油発電所」への投資を、事業主体であるAmp社が断念する声明を出したからだ。  Amp社は再生可能エネルギーの開発や投資を行うカナダの会社だが、そこからの投資を受けた「舞鶴グリーン・イニシアティブ合同会社」(舞鶴市)が市喜多地区に建設されるパーム油火力発電所を運営するとの報道がされたのは2019年8月25日。  この件についての新聞報道(『京都民報』)によると、出力は一般家庭12万世帯分の電力を供給できる66メガワットと国内最大。2020年6月に着工し、2022年11月から24時間365日体制で稼働、年間約12万トンのパーム油を燃料として使用する予定だった。
アブラヤシの果房

アブラヤシの果房の大きさは大人の胴体ほどもあり、そこに実が数百個もついている

 パーム油とは、アブラヤシの実から搾油され、油脂類の生産量では世界1位の油だ。2017年10月~2018年9月の1年間での植物油生産量は2億169万トンだが、そのうちパーム油だけで3分の1の7150万トンを占めた。  その約85%をマレーシアとインドネシアの2か国だけで生産し、日本には2019年に約78万トンが輸入され、その約8割は食用(菓子、マーガリン、冷凍・レトルト食品、即席麺、外食の揚げ油など)に、約2割が工業用(洗剤や石鹸、医薬品、化粧品など)にと、生活のあらゆる分野に利用されている。「環境にやさしい」とのキャッチフレーズで売られる石鹸やシャンプーなどもある。
アブラヤシの実

アブラヤシの実からは「パーム油」が、種からは主に洗剤などに使われる「パーム核油」が採れる

 そして近年始まったのが「パーム油を燃料として発電しよう」との用途。しかし、パーム油には2つの問題がつきまとう。1つは生産地で起きている環境破壊と社会破壊の問題。もう1つは、パーム油発電が引き起こす「発電所からの悪臭や騒音」といった公害問題だ。

台湾とほぼ同じ面積の森林がプランテーションに

緑の工場

数か月前まで熱帯林だった土地は、一本残らず同じ木だけが整然と並ぶ”緑の工場”になった

 この新聞報道のあと、計画に疑念を抱いた市民の1人が、アジアのアブラヤシ・プランテーションで起きている問題に詳しい市民団体「ウータン・森と生活を考える会」(大阪市)などに声をかけ、9月23日にウータン主催のセミナーが開催された。  森本代表は、当初「バイオマスはいいものだ」と思っていたので、単なるつき合いでセミナーに参加したのだが、学習会の内容に目が覚めたという。まず、ウータンの石崎雄一郎氏からはパーム油がいかにして生産されるかの説明があった。  パーム油の原料となるアブラヤシを育てるには、最低でも3000ha(東京ドーム約600個分)もの熱帯林を皆伐しなければならない。つまり、そこにある生態系と村々を消し去ることが基礎工事となる。  またインドネシアでは熱帯林の下に泥炭が眠っている場所が多く、プランテーション開発のために森が焼き払われると泥炭も燃え、大規模な森林火災がたびたび発生していることは国際的なニュースになっている。  具体的な数字を挙げれば、この20年間でインドネシアとマレーシアでは約350万ha(ほぼ台湾と同じ面積)もの森林がアブラヤシだけが植えられるプランテーションに転換された。
プランテーション開発のために丸裸

数か月前に通ったときは確かに緑の熱帯林だった場所が、アブラヤシプランテーション開発のために丸裸にされてしまった。どれだけの村と生物たちが失われたことだろう

 筆者も1989年以来、マレーシア・ボルネオ島サラワク州の熱帯雨林をほぼ毎年のように訪れ、「開発」による森の変貌を目の当たりにしている。ほんの数か月前まではうっそうとしていた森林が、いつの間にか地平線まで見える裸の大地へと変貌したことに、「住民はどこにいった?」と少なからぬ衝撃を受けたこともある。 「先祖代々守ってきた土地と、土地の権利を奪われてなるものか」と、先住民族がプランテーション企業やサラワク州などを訴える提訴が相次ぎ、今その数は150件を超えている。
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悪臭と騒音が24時間続く毎日が始まった
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