担当省庁は「力になりたいが、ガイドラインだけではやりきれない」
そして2020年1月11日、住民は改善を求めて三恵観光と話し合いをもった。三恵観光の顧問弁護士は
「土地所有権の行使で事業展開をしている。稼働を止めると損失が発生する。健康被害をゼロにすることはできない」「協定に法的拘束力はない」と、協定書を反故にする発言をした。
このような福知山市での情報は三谷代表を通じてすぐに森本代表に伝えられ、舞鶴市民が共有することになる。その結果、「守る会」が取り組んできた建設反対を求める署名は、今年1月27日までに1万989筆を集めるに至るのだ。
2020年1月30日、経産省と環境省の職員に要望書を手渡す三谷代表(写真左奥)と森本代表(写真左手前)
1月30日、この署名を携えた森本代表は三谷代表とともに東京の参議院議員会館に向かった。バイオマスエネルギーを管轄する経済産業省、そして環境問題を担当する環境省の職員への直接交渉に臨んだのだ。だが、結論から言えば、両省とも住民の力にはならないということが分かった。
経産省の職員に、経産省のガイドラインに従って事業者を指導するよう訴える三谷代表
たとえば経産省資源エネルギー庁には、バイオガスを扱うことでの「ガイドライン」がある。そこには「悪臭により、地域住民の生活に支障が出ないこと」「騒音が地域住民に影響を与えないよう適切な措置を講ずるように努めること」などの文言が並ぶが、いずれも
「努力目標」にすぎない。同席した経産省の職員も
「私たちもできれば力になりたい。しかしガイドラインだけではやりきれない」と言うしかなかった。
舞鶴市のパーム油発電所のスポンサー企業、Ampが住民の反対の意思をくみ取り、撤退を表明した
国だけではない。住民を守るべき舞鶴市も福知山市も、住民から企業への是正指導などの要請を受けても何ら対策が実施されない。加えて、地元紙以外ではほとんど報道されない。だがこのような状況でも、森本さんも三谷さんも諦めない。
たとえば今年3月、舞鶴パーム油発電所の建設予定地である喜多地区の自治会は「建設反対住民アンケート調査結果」を実施。すると、
回答のあった188戸のほぼすべてが建設に反対し、その理由の第1位は「騒音、臭い、低周波」が約8割を占めた。自治会は4月10日、これを多々見良三・舞鶴市長に提出した。
「守る会」にとって一つだけ明るい材料となったのは、今年1月から事業主体であるAmp社の担当者が交代したことだ。新しい担当者は住民の意見を真摯に受け止め、
「Ampとしては住民の意向を無視してまで建設を進めるつもりはまったくない」と明言してくれたのだ。
そして果たして、冒頭のようにAmp社は事業から撤退する。森本さんはこの姿勢を高く評価している。
舞鶴市のパーム油発電所の建設予定地では反対運動が急速に広がっている。「のぼり1万本」運動を経産省と環境省の職員にアピールする森本代表
だが、舞鶴市はまだ諦めていない。もともとこの計画は多々見市長が2019年4月、日立造船所にパーム油発電所を舞鶴市に誘致するよう依頼する書簡を送ったことから始まったものだ。
Amp社が撤退表明した翌日の24日、多々見市長は定例記者会見で
「パーム油発電は市の発展に必要。日立造船が新しいオーナー企業を探している」と表明した。森本代表は筆者へのメールで
「今後は日立造船を相手に闘うことになります」と、まだまだ住民運動を続けることを明かした。今後も注目していく必要がありそうだ。
<文・写真/樫田秀樹>