四国電力の報道発表は次の二つです。
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広島高等裁判所での抗告審における伊方発電所3号機 運転差止仮処分決定に対する異議申立てについて2020年2月19日 四国電力株式会社
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社長会見の概要(広島高裁への異議申立て)2020年2月19日 四国電力株式会社
一つ目は、保全異議申し立て(第三審)をしたという報告ですので字義通りのものです。二つ目の社長会見の概要が四国電力の主張です。本稿では、社長会見の概要について検討します。
本シリーズでも指摘した様に、山口ルート差し止め仮処分審広島高裁決定における高裁差し止め判断の根拠は次の二点です。
1)地震
地震については、2km以内の至近に存在する活断層の有無が争点になっています。佐田岬半島沿岸にある海底急谷部について、申立人側は、伊方発電所操業開始後に発見された下灘-長浜沿岸活断層の延長ないし、同様の活断層ではないかと主張しています。この海底急谷部は、西側末端が伊方発電所2km以内に存在する可能性があります。仮にこの海底急谷部が活断層であると伊方発電所は、「活断層が極めて近い場合の地震動評価」を行い、NRAによる審査に合格せねばならなくなります。
申立人(原告)が指摘する伊方発電所至近の活断層と疑われる海底の地形
赤円が伊方発電所を中心とした約2km円(縮尺は正確ではない)
抗告理由書3補充書4より (牧田により再編集)
約2kmの位置から撮影した伊方発電所2019/06/11撮影 牧田寛
この撮影地点で約1.6kmである
高裁決定では、この海底急谷部が活断層である可能性を拭えないとして差し止め決定の一本目の柱としています。
ここで注意すべきはこの海底急谷部の活断層認定は、筆者一番のお気に入り推し原子炉である
日本原子力発電敦賀発電所2号炉(原電敦賀2, PWR1.16GWe) を一撃でノックアウト (現在8カウント) した浦底断層と異なり、伊方発電所の存立を直ちに脅かすものではありません。しかし要求される耐震性の実証水準が大幅に上がるために時間と大きな費用を要します。
筆者は、将来の司法リスクや許認可判断の変更への備えとして特重工事の期間をフルに活用して2年程度で徹底調査・分析し、活断層でなければ万々歳、活断層であるならその後の投資について経営判断をすることでリスクを払拭することが最善であると考えています。
本質的問題解決を避け続ければ60年操業どころか40年操業すら危ういのではないでしょうか。
詳細は、
前記事にて解説していますのでそちらをご覧ください。
2)火山
第二争点の火山は、第一争点よりもやっかいです。まず、火山の噴火予知は、現在の人類には不可能です。この大前提を誤ると未来永劫司法リスク、大きなバックフィットのリスクが付き纏います。
伊方発電所の立地する四国には、第四期火山が存在しないために四国における火山噴火はあり得ません。これは日本国内でもたいへんに特異的な立地です。しかし九州にある久住、阿蘇が最寄りの火山で、しかも歴史ではなく地球史の尺度ですが巨大噴火によって西日本を壊滅させてきています。
原子力発電の内包するリスクは、この地球史的尺度で測らねばならないリスクを許認可行政に組み入れるという一大変更が新規制によってなされ、これが多くの原子力事業者、とくに九州電力と四国電力を苦しめています。
差し止め審では、地球史的時間軸で発生するVEI7級*の超巨大噴火(破局分噴火)こそ社会通念上、考慮する必要は無いと原審を踏襲していますが、人類の歴史的尺度で生じ得るVEI6級の巨大噴火については、四国電力の評価が過小であり、それを是とした原子力規制委員会(NRA)による審査も不合理であるとすることで差し止め決定の二本目の柱としています。
〈*火山爆発指数(Volcanic Explosivity Index, VEI。火山噴出物の量で区分される火山の爆発規模の大きさを示す指標)
この火山影響評価はたいへんにやっかいです。VEI6級の巨大噴火にはその大きさに幅があり四国電力は、過小評価をしているというのが高裁判断です。
高裁判断に従えば、VEI6級の巨大噴火(1991ピナツボ火山噴火*を大きく超える規模)のなかでも大きな想定を評価せねばならず、伊方発電所、川内原子力発電所、玄海原子力発電所の設置認可に甚大な影響が出ます。
〈*
【AFP記者コラム】ピナツボ火山の死神から逃げ切る2016/08/08 AFP〉
高裁判断に従った場合、工学的な対策は不可能ではないでしょうが、工業的には経済性という一点から対策には大きな疑問が生じます。根本的には、火山学の見地から人類史的尺度においてどの程度の影響までを考慮すべきかの同意を得ねばなりません。しかし司法判断と異なり、VEI7級まで考慮すべきと言う考えも強く合意は困難でしょう。
筆者は、少なくともVEI6級巨大噴火について社会・経済活動にどこまで影響を許容できうるかという社会的合意(Public Acceptance)を形成するしかないと考えます。しかし、こういった社会的合意形成は1年や2年では形成不能で、合意ができたときには40年で炉寿命終了となりかねませんし、電力会社の手におえるものではありません。政治による判断と民主的合意形成が求められます。
たいへんに残念ですが、この点について筆者は解を持ち合わせません。えらいことになったと思う限りです。詳細は、
前記事にて解説していますのでそちらをご覧ください。