四国電力、伊方原発が差止仮処分への保全異議申し立て。相次ぐ司法・規制リスクは何をもたらしたのか?

伊方3号炉

最接近して撮影した操業再開直後の伊方3号炉2016/08/13撮影 牧田寛

伊方原発3号炉に関する2つの主要争点

 前回は、四国電力により伊方発電所3号炉差し止め仮処分即時抗告審広島高裁決定に対する保全異議申し立てが行われたことにつき、その二つの主要争点について述べました。  二つの主要争点は、地震(活断層)に関わるものと、火山爆発による影響の想定に関わるものです。  地震に関わるものは、仮に住民側による申し立てが認められても伊方発電所を葬ってしまうものではなく、大飯発電所などと同等に「活断層が極めて近い場合の地震動評価」を行い、原子力規制委員会(NRA)による審査に合格すれば良いだけです。これについては時間とお金と不確実性の問題です。  火山影響に関わるものは、想定すべき火山爆発規模についての社会的合意の問題であって、これは立法、司法、行政による判断と民主的合意形成が必須とされます。影響の大きさはこちらの争点が非常に大きいと言えます。  今回は、これまでに相次いで発生した司法・規制リスクが伊方発電所の将来にどういう影響をもたらしているか、そして将来はどうなるかについて論じます。

ぬるま湯の中とはいえ堅調であったPWR陣営、ぬるま湯の中でも破綻していたBWR陣営

 日本では、国策によって原子力開発が手厚く保護されてきたため、福島核災害までは司法リスクがは極めて小さく、規制リスクは規制行政組織と業界のなれ合いによってほぼありませんでした。司法リスクとしては、もんじゅ差し止め高裁判決(2003年名古屋高裁金沢支部)が知られていますが、これはかなり例外的で、動力炉核燃料開発事業団(動燃)の機密文書が原告団により市中で発見されたという偶然も大きく作用しています。また結局、2005年に最高裁で原告敗訴となりました。  結果として、余程電力がヘマしない限り設置審は素通しですし、司法リスクなど鎧袖一触(がいしゅういっしょく。鎧の袖でちょっと触れただけで倒してしまうこと)であったと言えます。従って、一度運開した原子力発電所は、大きなインシデントや欠陥が発覚しない限り日本の電力業界が誇る優秀な保全能力と運転管理能力によって高い設備利用率を発揮し、結果として高い経済性を持ちました。  但し、1970年代は加圧水型原子炉(PWR)陣営、沸騰水型原子炉(BWR)陣営ともに導入初期の様々な問題*との苦闘により、設備利用率は低迷し、1980年代中頃以降から日本の原子力発電所は、世界でも随一の設備利用率を確立しました。特にPWR陣営においては、福島核災害まで理論上の上限値近くの設備利用率を維持していました。このためPWR陣営では、長サイクル運転(18ヶ月運転、設備利用率85〜90%)と60年運転を目指し準備を進めてきました。例えば伊方1号炉では蒸気発生器(SG)だけでなく炉心構造物の一括全交換(Reactor Core Internals Replacement, CIR)が世界でも初めて行われる**など、大きな投資が行われてきました。 〈*PWRは蒸気発生器(SG)細管損傷問題、BWRは応力腐食割れ(SCC)問題など。また美浜1号炉では燃料棒折損という重大インシデント隠しも発生している。 参照〉 〈**短工期・低被ばくで完遂した世界初 PWR 炉内構造物の一体取替 え工事(CIR) 三菱重工技報 VOL.43 NO.1: 2006〉  一方で、BWR陣営では東京電力を震源として1970年代からの事故隠し、インシデント隠し、報告書偽造などの結果として1970年代からの初期欠陥が知識化されずに全BWR電力にのこりました。また長年のきわめて悪質な不正の露見、震災などへの脆弱性から2000年代に入り規制リスクが一挙に表面化し、設備利用率は世界でも最低水準になり経済性を完全に喪失した状態で福島核災害を迎えました。  東京電力では現場へのコストカット圧力が極めて強く、その結果として津波対策、地震対策が著しく後進的であったことが福島核災害最大の原因であったと言えます。福島核災害当時、福島第一原子力発電所所長であった吉田昌郎(よしだ まさお)氏が貞観津波級の津波対策を拒絶した当人でもあったことは東京電力の原子力事業の実態と規制当局との癒着を知る上で忘れてはならないことです。これらは、業界秩序という形で他のBWR電力が防災対策を強化する足かせとなっていました。
日本の発電用原子炉の炉型別設備利用率の推移(2010年まで)

日本の発電用原子炉の炉型別設備利用率の推移(2010年まで)
1980年代中期以降、PWR陣営は優秀な設備利用率を維持している
2002年以降BWR陣営は、運転実績がきわめて悪く、2000年以降の設備利用率は50%台であった
設備利用率は、時間利用率ではなく発電量で評価される。とくに熱効率のよい冬期は、設備利用率が100%を超える場合がある(定格熱出力一定運転*の為)
ATOMICAより
〈*定格熱出力一定運転ついて 平成14年3月19日 経済産業省 原子力安全・保安院

世界の原子力発電所設備利用率の推移(2003年以降)

世界の原子力発電所設備利用率の推移(2003年以降)
日本の原子力発電所は、13ヶ月運転、3ヶ月定検が基本運転パターンであるので設備利用率の長期平均値の理論上限は、計算上81%前後となる。
諸外国では、60〜70%程度に低迷していた設備利用率が90年代頃から向上し、その後、24ヶ月運転の長サイクル運転が広く行われ、設備利用率は90%を超えるものもある。
日本では炉心設計の問題から、現状では18ヶ月運転の長サイクル運転が上限であり、その場合の設備利用率は86%前後が見込まれる
原子力施設運転管理年報2013年度版 原子力安全基盤機構より

2012暦年における世界の原子力発電所設備利用率

2012暦年における世界の原子力発電所設備利用率
日本は、福島核災害により順次停止、操業再開未定のために設備利用率がたいへんに低い
原子力施設運転管理年報2013年度版 原子力安全基盤機構より

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福島核災害後に顕在化した司法・規制リスク
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