BWR陣営も東北電力女川2号炉を筆頭に、操業再開を目指しています。しかしBWR陣営は、2002年度以降著しく運転実績が低迷しており、2010年度比較で単年度10%、2010年度までの生涯累計で9%、PWR陣営に比して設備利用率が劣っています。
福島核災害以降の操業再開遅れも大きく影響し、BWR優秀炉でもPWR9炉に比して13%近く設備利用率が低く60年運転でも60%を割り込む炉が殆どです。
商用原子炉で生涯設備利用率70%割れは経済的有意性を失わせますし、60%割れは事業継続理由を失わせます。従って、正確には個別炉ごとの評価が必要ですが、現時点ですらBWR陣営のほぼ全炉は、操業再開しても経済的合理性、経営上の合理性は全くなく、事業継続理由を失ったゾンビです。経済的合理性のない原子炉の運転が福島核災害の根本原因ですので、BWR陣営は、第二第三の大規模核災害の爆心であり続けると評してよいでしょう。
本連載では2回にわたり四国電力による伊方3号炉運転差し止め決定に対する保全異議申し立てについて技術的、経済的視点からその合理性を検討しました。
筆者は、伊方3号炉を国内中型商用炉最優秀炉と認める贔屓目もあるのでしょうが、四国電力が伊方3操業継続に固執する考えも分からなくはありません。今後大きな失敗と環境のさらなる悪化がなければ2054年まで操業継続する価値はあり続けます。しかし、この1月に生じた重要・重大インシデントの多発という原子炉運用上の重大懸念材料には、伊方発電所の組織建て直しというたいへんに大きく困難な事業を伴います。また、今後大きな失敗をしない、今後外的環境が悪い方向へ激変しないという想定が今後35年間継続するという前提は、あまりにも甘過ぎる想定と言えましょう。伊方3号炉の運転継続には、そういった薄氷を踏む様な将来しかありません。
四国電力は、伊方3号炉の建設に約3000億円を投じています。これは改標2型の想定費用としてはやや過大で、2炉同時建設を行った大飯3,4に比してかなり不利でした。現在四国電力は、たかだか900MWe級、実出力890MWeの原子炉一基に2000億円前後の追加投資を行っています*。
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四国電、伊方原発安全対策に1700億円2015/10/30日本経済新聞〉
この投資は、そもそも2013年2月に832億円と説明して着手*したものの、加速度的に金額が膨れ上がり、特重対策も巨額化する一方ですので、当初説明の3倍、2500億円超もあり得る状況で、ここでも原子力3倍法則を踏襲しています。これは極めて憂慮すべき事で、サンクコスト化の責任を逃れるために傷を大きくし続けていると言うことになります。筆者は、2013年2月のこの四電説明に対して当時より、現実には原子炉建設工事並みの3000億円に近い追加投資を要する可能性が高いと指摘してきており、事業継続は極めて危険としてきました。
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四国電、伊方原発の安全対策に1200億円 18年度までに 2014/04/30 日本経済新聞〉
2500億円と10年の時間があれば四国電力は、複数(3〜6ユニット)の330MWe級中型天然ガス火力発電所と多数の大型陸上風力発電所を整備することができ、原子力発電への依存という将来の経営への巨大リスクから解放されていました。
伊方発電所東方から西方に向けて撮影した佐田岬半島稜線2017/01撮影 秋田放射能測定室「べぐれでねが」めたぼ
佐田岬半島は東西40kmにわたり四国最大の風力発電好適地である。集落、住居は麓に分布しているため、居住地と風力発電機の距離を十分にとれる。
伊方発電所より東方は、伊方発電所の送電線と干渉するが伊方発電所廃止後は、送電線の規格を下げて移設すればよい。
写真右下の鉄塔から、平碆支線と伊方南幹線が鉄塔を共用し大きな脆弱性を持つことが分かる。
画面中央の風力発電機の稜線反対側に伊方発電所がありる。合衆国海兵隊の大型ヘリによるKamikaze-Attackがあったのは中央風車付近稜線反対側である。
電力会社に乾坤一擲の大勝負を要求することはやや酷ですが、四国電力は、日本の電力事業を牽引するトップ企業になれる千載一遇の好機を失い、巨大なサンクコストを抱え込んでしまったわけで、残念なことです。
<取材・文・撮影/牧田寛>