2019年の人文・社会科学系15冊 独立書店の先駆け・模索舎の名物店員がチョイス

映画や珍スポットにまつわる6冊

どこにでもある どこかになる前に。~富山見聞逡巡記~どこにでもある どこかになる前に。~富山見聞逡巡記~』(藤井聡子著 里山社 1900円)  富山にUターンしたライターの記録を書籍化したもの。これがまたグッと来てしまう。故郷だったはずの町が、再開発などでもはや愛着を持ちうる対象ではなくなってしまったという疎外の中で、街についてのミニコミをつくり出す。わたしも地方出身者というのもあって、地方が郊外化して、所在なさげというか、茫漠とした、どこにでもあって、でもどこでもない空間になっているという感じがわかるんですよね。 八画文化会館●『八画文化会館』(雑誌・リンクは創刊号/八画出版部 1800円)  日本の珍スポットなどを追う不定期刊行の雑誌ですが、僕はこれも推したいですね。vol.7は懐かしいパチンコホールの装飾スタイルなどを追っています。パチンコホール2300軒来訪という(すごい!)栄華さんという方のすごい記録が出てますが、これまた圧巻。パチンコホールは日本の風景の中で実は必要欠くべからざる構成要素なのに、どうもスルーされがちでは、という思いが渾身の一冊を作り上げました。 映画監督 神代辰巳映画監督 神代辰巳』(神代辰巳著 国書刊行会 1万2000円)  日活ロマンポルノの『一条さゆり 濡れた欲望』から『アフリカの光』といった作品まで、僕は神代辰巳監督のフォロワーなんですけど、この本は神代監督について、まさにアルファにしてオメガというか決定版! すごい本が出たなあというのが第一印象で、 スタッフやキャストへのインタビューから監督本人の文章、あとは映画化されてない脚本なんかも載せて704頁の大ボリュームなんですが、まさに神代ワールドのフルコース、これなら1万2000円も高くありません! 戦前不敬発言大全 戦前反戦発言大全戦前不敬発言大全 落書き・ビラ・投書・怪文書で見る反天皇制・反皇室・反ヒロヒト的言説』、『戦前反戦発言大全 落書き・ビラ・投書・怪文書で見る反軍・反帝・反資本主義的言説』(共に高井ホアン著 パブリブ 2500円)  これは書名の通り、戦前の落書きやビラなどに書かれた不敬発言と反戦発言をそれぞれ収録したものです。便所の落書きにも魂は宿る。意外に15年戦争の時代でも、人々の思いの底流には『不敬』『反戦』というのは一定あったんだと。内容は怒りをストレートに出したものもあれば、電波っぽいのもあったりといろいろですね。そして、国家がそれをいちいちチェックしていたというのは、落書きなどに現れる庶民の感情が持つ『怖さ』に彼らが怯えていた、ということの現れなんでしょうね。

社会運動を振り返る

運動史とは何か(社会運動史研究)運動史とは何か(社会運動史研究)』( 大野光明・小杉亮子・松井隆志 (編) 新曜社 1500円)  国立歴史民俗博物館で一昨年『「1968年」無数の問いの噴出の時代』といった展示があって話題を呼んだりと、ノンセクトラディカルとかいわゆる「68年」以降の日本でのいろんな『社会運動』というものを改めて捉え直す動きが出てきてますが、この本は結構うちでも売れていて、要注目の一冊ですね。当時からの運動経験者が当たり前だと思っていた感覚や思想と、現在の研究者たちが驚きやズレを感じながら対話し格闘していくのに唸らされますね。 地下潜行 高田裕子のバラード地下潜行 高田裕子のバラード』(高田武著 社会評論社 2700円)  2018年刊行なんですが、うちでは超ロングセラー。刊行以来ずっとコンスタントに売れ続けています。中核派革命軍の兵士だった夫婦の話で、妻の裕子は爆発物取締法違反で8年の未決収監、夫の武は全国指名手配されながらも地下生活で時効まで逃げ続け、2000年に浮上したんですが、なんと2年後に夫婦揃って中核派から追放されてしまう。新左翼の非公然武装闘争を担うという、厳密な意味でエクストリームな世界の中で、夫婦であり同志である…。そんな状況での愛とかヒューマニズムってなんだろう。心をえぐる一冊です。
次のページ
最後は雑誌、ミニコミにカレンダーまで
1
2
3


【模索舎】
〒160-0022
東京都新宿区新宿2ー4ー9
営業時間 12:00-12:30の間~21:00
※日曜・祝日 12:00-12:30の間~20:00
定休日なし
TEL:03-3352-3557
FAX:050-3505-8561



バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会