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『どこにでもある どこかになる前に。~富山見聞逡巡記~』(藤井聡子著 里山社 1900円)
富山にUターンしたライターの記録を書籍化したもの。これがまたグッと来てしまう。故郷だったはずの町が、再開発などでもはや愛着を持ちうる対象ではなくなってしまったという疎外の中で、街についてのミニコミをつくり出す。わたしも地方出身者というのもあって、地方が郊外化して、所在なさげというか、茫漠とした、どこにでもあって、でもどこでもない空間になっているという感じがわかるんですよね。
●『八画文化会館』(雑誌・リンクは創刊号/八画出版部 1800円)
日本の珍スポットなどを追う不定期刊行の雑誌ですが、僕はこれも推したいですね。vol.7は懐かしいパチンコホールの装飾スタイルなどを追っています。パチンコホール2300軒来訪という(すごい!)栄華さんという方のすごい記録が出てますが、これまた圧巻。パチンコホールは日本の風景の中で実は必要欠くべからざる構成要素なのに、どうもスルーされがちでは、という思いが渾身の一冊を作り上げました。
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『映画監督 神代辰巳』(神代辰巳著 国書刊行会 1万2000円)
日活ロマンポルノの『一条さゆり 濡れた欲望』から『アフリカの光』といった作品まで、僕は神代辰巳監督のフォロワーなんですけど、この本は神代監督について、まさにアルファにしてオメガというか決定版! すごい本が出たなあというのが第一印象で、 スタッフやキャストへのインタビューから監督本人の文章、あとは映画化されてない脚本なんかも載せて704頁の大ボリュームなんですが、まさに神代ワールドのフルコース、これなら1万2000円も高くありません!
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『戦前不敬発言大全 落書き・ビラ・投書・怪文書で見る反天皇制・反皇室・反ヒロヒト的言説』、『戦前反戦発言大全 落書き・ビラ・投書・怪文書で見る反軍・反帝・反資本主義的言説』(共に高井ホアン著 パブリブ 2500円)
これは書名の通り、戦前の落書きやビラなどに書かれた不敬発言と反戦発言をそれぞれ収録したものです。便所の落書きにも魂は宿る。意外に15年戦争の時代でも、人々の思いの底流には『不敬』『反戦』というのは一定あったんだと。内容は怒りをストレートに出したものもあれば、電波っぽいのもあったりといろいろですね。そして、国家がそれをいちいちチェックしていたというのは、落書きなどに現れる庶民の感情が持つ『怖さ』に彼らが怯えていた、ということの現れなんでしょうね。
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『運動史とは何か(社会運動史研究)』( 大野光明・小杉亮子・松井隆志 (編) 新曜社 1500円)
国立歴史民俗博物館で一昨年『「1968年」無数の問いの噴出の時代』といった展示があって話題を呼んだりと、ノンセクトラディカルとかいわゆる「68年」以降の日本でのいろんな『社会運動』というものを改めて捉え直す動きが出てきてますが、この本は結構うちでも売れていて、要注目の一冊ですね。当時からの運動経験者が当たり前だと思っていた感覚や思想と、現在の研究者たちが驚きやズレを感じながら対話し格闘していくのに唸らされますね。
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『地下潜行 高田裕子のバラード』(高田武著 社会評論社 2700円)
2018年刊行なんですが、うちでは超ロングセラー。刊行以来ずっとコンスタントに売れ続けています。中核派革命軍の兵士だった夫婦の話で、妻の裕子は爆発物取締法違反で8年の未決収監、夫の武は全国指名手配されながらも地下生活で時効まで逃げ続け、2000年に浮上したんですが、なんと2年後に夫婦揃って中核派から追放されてしまう。新左翼の非公然武装闘争を担うという、厳密な意味でエクストリームな世界の中で、夫婦であり同志である…。そんな状況での愛とかヒューマニズムってなんだろう。心をえぐる一冊です。