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『HAPAX』(雑誌・リンクはVol.1/夜光社 1500円)
エモいアナーキー、というと怒られるかもしれませんが、エモい、って結構大事だと思う今日この頃、この『HAPAX』も状況を考えるための一冊でしょう。Vol.11を読んで考えたのは、「運動」って勝利するとか獲得するとか、組織をつくるとか、選挙でどれだけ得票するとかで語られがちですが、実はそういう「成果」に還元されるもんでもないというのは新鮮。あと、社会人としてのモラルに私たちは普段ものすごく心を掴まれていますが、そういうのから身を引き離してものを考えたり何かしてみたいなんていう時にもオススメです。
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『情況』(雑誌・リンクは2020年1月号/情況出版)
歴史的テーマ、としての新左翼というのもあるけど、新左翼の流れを汲んだメディアというのは今も意外に元気なんですよ。すくなくともうちでは結構売れてますし、若い人なんかにも注目されて欲しいですね。関西の『人民新聞』なんかも各地の社会運動情報などを掲載していてなかなか読ませますが、現在の『情況』はテーマが幅広ですね。色々とやっているのが印象的です。
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『福音と世界』(雑誌・リンクは2020年1月号/新教出版社)
気を吐く、というのを雑誌で見せるとしたら、模索舎の感覚で言えばこれ。キリスト教系の版元からの雑誌なんですが、社会問題についてえぐる、えぐる! 天皇制に朝鮮半島と日本の問題、沖縄問題……。2019年12月号の特集は『ネオリベラリズム再考』でした。最新号は神秘主義特集ということで、それほど私は詳しくなくて恐縮ではありますが、シモーヌ・ヴェイユとか、けっこうキワキワなところまで、あらためて攻めてますね。
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『アナキズムカレンダー2020 エマ・ゴールドマン 1869~1940』(アナキズム文献センター 1200円)
アナキズム文献センター発行の毎年カッコいいカレンダーですが、今年はエマ・ゴールドマン。アナキストにしてフェミニスト、栗原康さんが評伝にした伊藤野枝も影響を受けてますね。フェミニズムの注目度が赤丸急上昇の今、エマ・ゴールドマンも大事。「解放は女性をして厳密な意味で人たらしめねばならない」、「自由に向かう大道に数世紀の間横たわっている服従と奴隷の道徳は払拭されなければならない」とは彼女の言葉ですが、これ超大事。
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『CURRY NOTE SPDX 2010-2019』( 宮崎希沙著 MESS 1000円)
注目度MAXのZINE、『CURRY NOTE』の10年にわたる記録を一冊にまとめた、文字通りデラックス版。要するに、カレーを食べ歩いた記録なのですが、ひたすら反復し継続しながらカレーに向き合い記録する…まさに圧巻。シュルレアルにしてエモーショナルな、カレーを通じた新しい文章表現が生まれたのです。ナンもしくはチーズナンのブローチとマグネットがついた、模索舎の限定パックはすでに売り切れ。ちなみに著者はデザイナーで、矢部さんの『夢みる名古屋』の装幀もされています。
以上が、榎本さんが選出した2019年の15冊だ。いわゆる大手出版社が出す書籍もいいけど、ちょっと角度を変えて、読んでほしい、読ませたい本を作り出そうという作り手や書き手の熱い想いが詰まった本で振り返る2019年。2020年になってからでも全然OKなので、ぜひこれらのオススメ本、一度手に取ってもらえると幸いだ。
<取材・文・撮影/福田慶太>
フリーの編集・ライター。編集した書籍に『夢みる名古屋』(現代書館)、『乙女たちが愛した抒情画家 蕗谷虹児』(新評論)、『α崩壊 現代アートはいかに原爆の記憶を表現しうるか』(現代書館)、『原子力都市』(以文社)などがある。