福島第一原子力発電所「ALPS不完全処理水」への対応へ求められる最低限のこと
福島第一原子力発電所には、100万トン余りの「処理水」が存在し、そのうち8割の約80万トンの「
ALPS不完全処理水」が存在し、現在も増え続けています。またそれらの液体は、恒久保管を考慮していない、小型タンクに仮保管されている状態です。結果それらは脆弱な状態にあります。
この大量の
「ALPS不完全処理水」には約1PBqを超えるトリチウムと、告示限度を数倍から2万倍超過する多種の核種が含まれています。
トリチウムのみに注目すると、その
莫大な量が放射線防護の上で最大の脅威となっています。福島第一原子力発電所では、1日平均四千人の労働者がはたらいていますが、この不安定な小型タンクの中にある1PBqというトリチウムの存在は大きな被曝リスクを労働者に及ぼします。
大きな事故や災害でこのタンクが崩壊した場合、それは労働者の被曝に直結します。また時間がたつにつれて士気が低下することは組織の常で、近い将来、ずさんな管理で労働者がトリチウム雰囲気に長期間暴露される可能性は「無い」とは言えません。
まさに、「
ありえないなんて事はありえない」の真理です。
原子力業界ではシブチンで名にし負う東京電力は、
お金がもったいないからかタンクは規格の低いものばかり設置し、お金を小出しにし続けるというまさに「戦力逐次投入」という最悪の事を行っており、そのさきにあるのは大敗北(破綻)かなし崩しの「
ALPS不完全処理水環境放出」でしょう。
少なくともなすべき事は、
1号炉から3号炉地下への地下水流入の完全停止ですが、最初から失敗が分かっていた凍土壁工法の大失敗が尾を引いており、相当な長期間の持久を要します。
その時間を稼ぐために必要なことは、次の二点でしょう。
1)ALPS不完全処理水をより安定した保管方法に移行する
2)ALPS不完全処理水を当初目標水準まで処理を完遂し、大幅に減容する
現在、東京電力、環境省、原子力規制委員会、経産省が目指しているものは上記の2に一見見えますが、次の四点の大きな欠陥を持ちます。
1)100万トンのうち約80万トンが汚染水の処理に失敗した他核種汚染水=ALPS不完全処理水である
2)放射能量がトリチウムのみで1PBqときわめて莫大である上に現在も毎年50〜80TBq増加し続けている
3)大破した原子炉建屋への地下水流入停止に失敗し、放射能汚水の増加を停止できる見込みが無い
4)ALPSの処理能力が80万トンという莫大な「ALPS不完全処理水」の量に比して不足しており、現在の2倍にALPSを増強して、増強分を「再浄化」専用としても10年近い処理期間を要する可能性がある。結果、間に合わない
これらの欠陥により、次の問題が生じています。これらについて容認するという
社会的合意は全くありませんし、
合意を得るための努力もなされていません。あるのは、
「トリチウム水」という嘘に基づく虚構、まさに「ヒノマルゲンパツPA」(Japan’s Voo-doo Nuclear Public Acceptance: JVNPA)のみです。
1)トリチウム水という説明と全く異なり、多核種放射能汚水としての環境へのリスクが顕在する
2)量論的に、東電が守ると宣伝している従前の環境基準、目標値を遵守すると、処理には最低でも50年前後を要する(原子力規制委、東電、環境省、経産省は7年での処理完了を主張)
3) 東電、環境省、経産省が提示する処理費用が極端な過少見積もりである。「原子力3倍ドン、更に3倍ドン」で9倍(約10倍)という原子力むつや核燃料サイクルで典型の費用インフレの法則があるが、本件はそれより更に程度が悪く「原子力10倍ドン、更に10倍ドン」で100倍もあり得る
4)原子力・核開発の歴史において、実力に見合わない拙速な計画は、かならず破綻し、大規模核災害や大規模核汚染を引き起こす。典型事例が英国と日本の原子力・核開発史である
これらを念頭に置いて、現在官民から提示されている「処理水」=「ALPS不完全処理水」対策について次回から更にピーチクパーチク*と論じます。経産担当官僚人士には、JVNPAで自己催眠にかかった目を覚ましてもらいましょう。
<*
経産担当官僚が汚染水問題の議論を「ピーチクパーチク」と表現 フェイスブック投稿後に削除2019/09/30AERA dot. (アエラドット)>
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』「トリチウム水海洋放出問題」再び編3
<文/牧田寛>