「トリチウム」の生物への影響は? 東電対応の何が問題なのかピーチクパーチク指摘する

長期大量摂取被曝事故では労働者の死亡事例がある

 トリチウムでは、長期大量摂取被曝事故による労働者の死亡が知られており、長期間トリチウム雰囲気に暴露され続けることは避けるべきと合意されています。トリチウムは、生物半減期が短いものの、常時トリチウムに暴露されると、排泄が取り込みに追いつかないものと考えられます。
ヒトのトリチウム摂取例

出典ATOMICA

 チェルノブイル核災害では、遠隔操作機械も放射線で壊れてしまう過酷環境で作業した兵士にウォッカが加配されたことが有名ですが、加配の理由はともかく利尿作用の強いアルコール類の摂取によって排尿を多くすることは理にかなっています。日本人なら、とりあえずビールでしょうか。但し、被曝後にアルコールを摂取して良いかは存じません。  HTOについては、一般公衆の受けるリスクとしては他の放射性核種と比して遙かに小さいものと考えられていますが、それには、公衆がトリチウムという人為的に作られた放射性元素に有意な濃度で常時暴露されないという大前提があります。  尤も、低線量被曝については他の多くの核種と同様に科学的な合意はいまだ十分に得られていません。  環境中に放出されたトリチウムは、その大部分がトリチウム水(HTO)として存在しますが、一定量が有機結合型トリチウム(OBT)になります。  OBTは、主としてHTOから光合成によって合成されます。従って、海水中では植物プランクトン、海藻が合成に寄与し、食物連鎖の中に取り込まれます。生物濃縮については、無いだろうという考えが主流でしたが、生物濃縮についての研究報告も近年では幾つか存在しており、生物濃縮の有無については科学的合意がなされているとは言い難くなっています
杉年輪中のトリチウム濃度

杉年輪中のトリチウム濃度
<出典>
百島則幸,トリチウムの環境動態, 富山大学水素同位体科学研究センター研究報告20, 2000, pp.8
<原典>
N. Momoshima. Radionuclides in “Plant Ecophysiology”, edited by M.N.V. Prasad, John Wiley & Sons, Inc., New York, 1996, pp. 457.

 ここで杉の年輪から検出されるトリチウム濃度を図示します。植物は、トリチウムを大部分水(HTO)として取り込みますが、光合成によって有機結合型トリチウム(OBT)を合成します。HTOは、外の環境のトリチウム濃度と平衡状態になりますが、OBTは組織に取り込まれ、その組織が出来た時点でのトリチウム濃度を反映すると考えられます。  図から分かるように、杉年輪には、過去の大気圏内核実験によるトリチウム濃度の増減が反映されています。このことは、植物を介して食物連鎖にOBTがとり込まれ、生体内で固定する可能性ことを示しています。  なお、動物が取り込んだHTO(トリチウム水)も消化などの代謝機構によってOBTとなることが分かっていますが、食物連鎖に取り込まれるトリチウムの多くは光合成によるOBT化によるものです。  一方で、ヒトや動物が経口摂取したOBTは、他の有機物同様に消化、燃焼され、その50%近くがHTOとして短時間で排出されます。残る50%のOBTが生物半減期40日で滞在し、240日後に1/100以下まで減少します。そして、ごく一部のOBTの生物半減期が1年となり長期間体内に滞在します。  存在量の多い放射性物質について生物半減期のみを見て事を判断することは誤っています。リスクが無視できるほどに排泄されるまでに半減期を何度経る必要があるかが大切です。また、継続的に放射性物質に暴露される場合は、生物平衡に至る日数と生物平衡の放射能濃度が重要となります。  大切なことは、トリチウムにおいては、従前、「生物への影響はほとんど無い」という事で合意を得られているとしてきた一般向けの説明は厳密には成立しておらず、低線量被曝による長期影響やOBTの生物濃縮、とくにOBTの生物への影響については、いまだに未解明であることがあり、科学的合意は十分には得られていないと言うことです。  但し、他の放射線核種に比べれば、トリチウムの放射毒性がずっと弱いことに変わりはありません

最大の問題は「膨大な量」とトリチウム以外の核種を含むこと

 一般には、きわめて弱い放射能であり、生物への影響は微々たるものだと「信じられている」トリチウムですが、放射毒がたいへんに弱いと言うことでは科学的合意がなされているものの、低線量被曝影響や有機結合型トリチウム(OBT)の挙動や生物濃縮、被曝影響について科学的合意が十分に得られているとは言いがたいと繰り返し述べてきました。そして困ったことに、その弱い放射性物質が約1PBq(一千兆ベクレル)を超えるという莫大な量且つ不安定な状態で福島第一原子力発電所に存在しているのです。  福島核災害におけるトリチウム問題は、その量が余りにも膨大でありかつ、貯蔵状態が不安定なことがその核心です。そして、問題解決を極めて困難にしている原因は、「トリチウム水」=「処理水」とされてきたものの80%前後が、告示濃度を大幅に超えるトリチウム以外の核種を含んだ「ALPS不完全処理水」であって、国際的常識、慣例、法規制において環境放出できないものと言うことです。
ALPS処理水の残留他核種放射能濃度ごとの内訳(炭素14放射能濃度での補正前)

ALPS処理水の残留他核種放射能濃度ごとの内訳(炭素14放射能濃度での補正前)
約23万トンは、トリチウム水として海洋放出出来る可能性があるが、残りはこのままでは放出できない。
約23万トンについても炭素14を加えた補正をすると大きく減少する可能性がある
東京電力 処理水ポータルサイトより

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