「まずは法律からっていうのはやめましょう」!? 報じられない4・8経団連中西会長会見の問題発言

中西会長の無意味な嘆き

 さて、ここからは前掲の質疑応答の解説に移りましょう。  質問3.からは明らかに事前のすりあわせのない質問です。最初は朝日新聞のK氏です。質問は本来、日本では特例中の特例として設定された運転期間60年延長どころか、80年への延長を中西提言で持ち出した事への質問です。以下回答となります。 “8年間も動いてないんですよ。40年間の内の8年間で、まっまー5分の1ですよね。”  これは「だからどうした」と答えるしかありません。BWRは40年近い長年の制御棒落下事故隠しなどにより致命的欠陥が残り続け、今になっても島根3がその影響で運開できないなど、様々な不正行為や不祥事、事故、災害で長期運転停止に陥っています。結果、今世紀に入り、BWRは設備利用率が極めて低迷しています*。

*今世紀に入り、BWRは特異的に設備利用率が低迷し、概ね55%程度となっている。これは長年の事故隠しの露見がBWR全炉に波及したこと、新潟県中越地震で甚大な被害を受けたことなどによる。2001年以降、10年間で4年分の停止期間であった。(出典:Atomica)<画像出典リンク

 中西氏はもう8年動いていないと嘆きますが、実際には事故隠し、欠陥、中越地震による損傷、多数の深刻な不祥事などで2001年から2010年に平均4年停止しており、今世紀に入りBWRは19年中12年動いていません。今世紀のBWRの平均設備利用率は、35%程度であり、商用炉としては経済性の喪失により迅速な廃炉を真剣に検討する状況です。  これは規制が悪いのでなく、長年の事故隠しによりその知識化ができず、近年では諸外国では起こりえないような制御棒脱落をはじめとした原始的且つ深刻な欠陥が放置されてきたためであり、メーカー、電力事業者双方に能力が無いこと、結果として日本のBWR全炉にどのような欠陥が隠れているか分からない状況に陥っていることが指摘できます。要は、世界にもまれに見る能なしが扱う欠陥原子炉です。そのような事業者が扱うガラクタ原子炉が爆発した、そして多数が爆発の危機に陥ったのが福島核災害とそれに並行する多数の原子炉における多重防護の第三層まで破壊寸前に至った重大同時多発インシデントです。  そうであるが故に改修には多大な費用と時間がかかり、審査にも時間を要し、住民同意はきわめて困難なものとなります。嘆いたところで、それは自業自得であり、実力です。 

規制委も呆れた強欲な「時間延長」

“まず動いてない期間を本当に稼働期間として、40年の中に算入するのかしないのか、これはまず第一段階だと思います”  これは、炉の欠陥と性能不良、運用者の能力不足によって生じたことであって、完全に自業自得です。既述のように多くのBWRが事実上12年の停止(計画停止、計画外停止の合計)に今世紀に入って陥っており、おそらく早くても再稼働までには3年程度、更に「特重施設」の問題はPWR系と同等、あるいはより深刻ですので、全体で合計15~20年程度の停止期間となり得ます。更に前世紀中もシュラウド交換などで長期停止を行っていますので、40年間の通算設備利用率は50%以下と目も当てられない状況になり得ます。これは経済性の喪失によって即刻廃炉となる状態です。  一方で、再稼働に向けた投資は2000~3000億円/基が見込まれますので、40年間での総投資額回収は不可能となります。大赤字です。とてもまともな事業評価をしているとは考えられません。いかにも日本的経営です。  中西氏がお目こぼしを強請(ねだ)る理由はこれです。しかし、原子力は規制の上に成り立つ産業です。そのようなことをすれば第二第三の福島核災害の重大要因となります。いかにも日本人らしい、ハードウェアのみに目が行きソフトウェアには意識すら向かない思考です。  また、中西氏はご存じないような口ぶりでしたが、運転休止中の原子炉と周辺設備も時間とともに経年劣化してゆきます。もちろん、運転に寄る熱サイクルが加わらない為に劣化は緩慢としたものですが、むしろ長期停止プラントの方がやっかいな課題を抱える面もあります*。 <*参照:BWRプラントの長期停止時の保管対応に関わる対応2013/10/29東芝>  特重施設の時間猶予を再度強請る電力に、原子力規制委員会(NRA)更田豊志(ふけたとよし)委員長が語気を荒げて突き放したのは当然のことで、40年は40年、これの変更を強請るような無能で邪で無責任な事業者は直ちに原子力産業から出て行けば良いのです。まさに「退場」です。  40年で採算がとれないのなら直ちに事業を中止して、傷口をそれ以上広げないか、運転期間60年への延長をして更に数千億円の投資をするか二つに一つです。  更田氏が指摘するとおり、採算がとれるか否かは、NRAの考えることではありません。事業として成り立たないのならやめれば良いのです。それは事業者の考えることです。そして能力の無い事業者は、原子力を扱う資格など微塵たりともありません。規制によって、経済原則によって退場です。それが歪められてきたが故に福島核災害を起こしたのです。
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