「まずは法律からっていうのはやめましょう」!? 報じられない4・8経団連中西会長会見の問題発言

相応の努力を続けた米原子力産業と比較する愚

“アメリカなんかじゃ、もうすでに60年80年、そういう実績も出始めています”  これは事実で、合衆国ではすでにほぼすべての原子炉が運転期間の60年への延長を審査しており、多くがライセンスを持っています。また、2012年から2032年までの運転期間延長をしたターキーポイント3,4号炉など6基が昨年運転期間の20年再延長(80年)を申請し、更に二基が申請準備中です*。  一方で、経済的合理性の喪失から延長ライセンスを返上して廃炉となる原子炉も数多く生じています。結果、長年104〜112基を維持していた原子炉は98基に減勢し、近く90基を割ります。期待された新規増設は、主として経済性の喪失からヴォーグルのAP1000二基を除きすべてキャンセルとなり、ヴォーグルも建設中止を巡り事業者間で訴訟合戦になる可能性があります。 <*参照:“解説 原子力発電所の運転延長に係る海外動向 ー実績では米国が先行、近年は各国で取組みが進展ー | 一般社団法人 日本原子力産業協会” 2019/3/19>  合衆国は、80年代の低迷期を克服し、今世紀に入ってからは設備利用率90%前後の極めて優秀な実績を残しており、発電原価が高い低成績炉は廃炉となる一方で、発電原価が発電端で2円/kWh程度と風力と互角に競争し得る炉が多数存在します。一方で、発電原価が10円/kWhなどと言った低成績炉は廃炉となり、昨今の新・化石資源革命と再生可能エネ革命によって電力卸価格の中央値は4〜5円/kWh程度にまで下がり、対応できない炉の淘汰がさらに進んでいます。おそらく2025年迄に80基を大きく割り込むであろうと推測されています。  一方日本では定検周期のハンディがあるために5〜10%ほど不利となりますが、PWRは十分に世界に互して行けるものの、BWRは著しい成績不良のために福島核災害前から合衆国ならばその多くが廃炉となる体たらくでした。これは80年代から90年代にかけて低設備利用率に苦しむ合衆国やソ連邦・ロシアを嘲笑し、「世界一の原子炉運転技術」を誇っていた日本が実のところ特にBWR陣営では、その原点を東京電力として長年事故隠し、欠陥隠しすることによって成績を下駄履きしていた、要はカンニングをしていたのです。  これはなんと現在分かっているだけで1978年東京電力福島第一3号炉に始まり2007年に発覚するまでに20件の欠陥起因の重大インシデントが露見しています。これはインシデントを知識化、経験化してこなかったことを意味しており、日本固有の欠陥として残り続けたことになります*。 <*参照:原子力発電所の制御棒脱落事故隠蔽問題に関する意見書 2007年8月23日 日本弁護士連合会
2007年に発覚したBWRにおける制御棒の引き抜け・誤挿入インシデント一覧

2007年に発覚したBWRにおける制御棒の引き抜け・誤挿入インシデント一覧
注1)これは2007年当時に発覚したもののみである
注2) BWRにおける制御棒の引き抜け・誤挿入インシデントが実際にはいつからどれだけ発生していたかは正確には分かっていない。
注3)このインシデントは、構造上BWRでは起こりえるものであるが、事故の経験を共有し、知識化することによって克服する類いのものである。ところが日本では隠蔽によって2007年まで40年近くその機会は失われていた。(出典:日弁連)

2007年以前の代表的な不正事例(抽出したもので全体ではない)

2007年以前の代表的な不正事例(抽出したもので全体ではない)
動燃事業団とBWR陣営に得に多いが、美浜で死者を出した事例などPWR陣営もあまり褒められたものではない。しかしとりわけ深刻且つ悪質であったのは東電、動燃、エネ庁であり、「規制の虜」となっていた原子力安全保安院である。
 福島核災害後、原子力規制当局の行動が厳格化したが、その結果、とくに「もんじゅ」を中心として無数の不祥事・インシデント隠しが露見し、リストだけで本にできるほどの惨状である。(出典:日弁連)<出典リンク

   結果としてBWRの運転成績は極めて悪くなり、更に福島核災害を発生させています。もちろん直接の原因ではありませんが、あり得ない様々な欠陥を放置し続け、そのうえ過酷事故を防ぐための原子炉の使い方を運転員から所長まで誰も知らないという絶対にあってはならないことが発生し、原子炉を爆発させています。  合衆国の実績は素晴らしいものですが、日本にはそのような実績は無く、能力も認められません。3基の原子炉を爆発させたことが日本人の実績であり、実力です。巻き沿えとなったPWR陣営には気の毒ですが、そういう腐敗した無能者を電力業界の雄としてきたツケです。  合衆国は合衆国です。彼らは相応の努力をしてきた結果として今を享受しています。少なくとも中西氏や経団連、日立、東芝、BWR電力に合衆国を引き合いに出す資格は微塵たりともありません。屑事業者は屑なのですから屑と言われたくなければ、追い出されたくなければ、不断の努力で原子炉をまともに運転し、20年でも50年でもかけて実績をゼロから積みあげれば良いのです。それができなければ原子力の世界から去るのです。今日、大もうけできるのは風力と高効率天然ガス火力です。おっと、そういえば風力からは全重電メーカーが脱落したばかりですね。それが日本の実力です。

飛び出した、あまりにふざけた暴言

“まず法律からっていう姿勢はちょっとやめましょうよって”  中西さん、貴方は日立とともに原子力の世界から立ち去り、二度と戻らないでください。この言葉は絶対にあり得ません。  これはまさに福島核災害の根本原因である、日本固有の破廉恥思想です。原子力・核産業は規制の上に成り立つ産業です。規制をご都合主義でねじ曲げることは絶対にあってはならず、それがチェルノブイル核災害と福島核災害の根本原因です。 「規制の虜」(Regulatory Capture。規制する側が規制される側に実質的に支配されてしまうこと)と称する日本に著しい現象が福島核災害の重大原因と知られていますが、これは、規制機関が被規制側の勢力に実質的に支配され、規制や法規が事業者側の都合でねじ曲げられ改変されることを指します。これがまさに福島核災害の共同正犯である原子力安全保安院であり、中西氏の様な人物がそれを行ってきたのです。  動画で改めて確認しましょう。前出の動画の17分36秒からです。  本当に言ってます。 “まず法律からっていう姿勢はちょっとやめましょうよって”  直ちに原子力と核の世界から出て行きなさい。そして二度と戻ってくるな。ということになります。
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透けて見えてきた経団連の「真意」
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