photo by Anthony Quintano via flickr (CC BY 2.0)
GAFAという言葉が普通に人々の口にのぼるようになって久しい。未来を先取りし、拡大を続けるIT企業群。その中でもフェイスブック社(以下、FB社)は異彩を放っている。イギリスのガーディアン誌は、CEOマーク・ザッカーバーグが計画を説明する姿は、ソシオパスが大学に提出した悪夢のようなエッセイを彷彿させると酷評している(参照:
『Mark Zuckerberg’s Facebook mission statements hide his real aim』、2019年3月10日)。
だが、ザッカーバーグの言葉がソシオパスの悪夢のように聞こえるのは彼の真意を理解できていないせいで、理解できれば論理的かつ理性的なのかもしれない。
将来、世界市場の中心は欧米以外(アジア、アフリカ、ラテンアメリカ)に移ると考えられるが、欧米以外が中心に動く世界の姿をイメージできていない人は多い。私の買いかぶりかも知れないが、FB社は欧米以外が中心となった世界のイメージを持って、それに合わせた戦略を展開しているように思える。プライバシー重視や仮想通貨などもフェイスブックが新しい世界のインフラとなるための布石と考えると理解しやすく、マーク・ザッカーバーグが語る計画は筋の通ったものとなる。
フェイスブック社の新方針
フェイスブックの
2019年第1四半期の決算資料を見ると、フェイスブックの利用者(フェイスブック、WhatsApp、インスタグラムなどグループアプリも含む)はとっくに欧米以外に移っていることがわかる。欧米以外の地域でのフェイスブックの利用者(DAUs=Daily Active Users)はおよそ70%となっている。欧米の利用者は資料を見る限り、2年間ほぼ横ばいである。なお、欧米以外とは、アジア、ラテンアメリカ、アフリカなどである。
一方、売上に関しては欧米とそれ以外の地域の双方で増加しており、伸び率はほぼ同じだが、どのような市場でも成長には限界がある。フェイスブックの利用者が欧米において横ばいになったように、欧米の売上も遠からず横ばいになるだろう。そして欧米以外の地域では利用者も売上もまだ伸びしろがある。近い将来フェイスブック社を支える市場は欧米以外=アジア、ラテンアメリカ、アフリカになるだろう。同社はこの市場をターゲットにした戦略を展開せざるを得ない。
FB社は2019年3月6日、プライバシー重視に方向転換すると発表し(参照:「
”A Privacy-Focused Vision for Social Networking” by MARK ZUCKERBERG」)、2019年4月30日のイベントF8でザッカーバーグがスピーチを行った。
ザッカーバーグによれば、これまでのフェイスブックはオープンな広場のようなものだったが、これからはリビングルームのような安全でプライバシーの保護されたものに変更するという。具体的な内容は、大きく3つ。メッセージを暗号化し、長期間保存しないようし、FB社アプリ(フェイスブック、WhatsApp、インスタグラム)で相互にメッセージを送り合えるようにするというものである。
これに対していくつかのメディアがネガティブに反応した。
CNNはFB社のビジネスの本質が「監視資本主義」である以上、プライバシー重視をうたったとしても、求めているのは利用者を囲い込み、収益を上げることに他ならないとし、マッチングアプリやインスタグラムでのショッピングは個人情報をより多く集約するためであると指摘した(参照:
『Facebook’s new plan doesn’t protect your privacy, and neither does the FTC』、2019年5月3日)。
ワシントンポスト誌は
『Mark Zuckerberg claims that, at Facebook, ‘the future is private.’ Don’t believe him.』(2019年5月5日)という記事で、FB社が過去に10以上のプライバシー侵害で国際的な調査を受けたことをあげ、そもそも同社のビジネスモデルはプライバシー重視とは真逆であり、発表をそのまま信じることはできないとしている。
前掲のガーディアン誌の記事もフェイスブックのプライバシー重視路線を批判したものだ。
そもそもFB社は社会的使命など持っていないと断罪し、初期にプライバシーは旧社会の概念と言っていたザッカーバーグが重視に方向転換したのは単にビジネスのステージが変わったからだとしている。市場のトップになるまでは利用者にプライバシーをどんどん提供させビジネスを拡大し、トップになった時点で今度はプライバシー重視と言い出した。独占禁止法を逃れてフェイスブック、WhatsApp、インスタグラムで統合キャンペーンを行えるようにし、コンテンツの中身の責任を回避するためにプライバシー重視(フェイスブック自身もコンテンツを見ない、見られない)と言い出した、と批判している。